novel
光文社古典新訳文庫については、ドストエフスキーのブームがあったときに、ネットでもさんざん批判的なブログが書かれた。自分もジョゼフ・コンラッドの『闇の奥』が新訳で出たとき、訳者あとがきの黒原敏行氏の意気軒昂な文章(いかに自分の新訳が正しいも…
ブックオフの100円棚に棲息し、野外フェスで按摩師をつとめ、血族と労働の問題に頭をかかえる。そんな生きづらさを抱えた不遇で運のないN森さんがA知から東京に越してきたのが7月。以来、病気がちな彼女は、東京と親密な関係を取り結ぶべく、さまざまに奔走…
●ただ坐ることに打ち込む5(最終回) バラック小屋に西日が差した。西日はまぶしいのだった。 部屋の畳はすっかり色あせて替え時をとうに逸していた。家族の誰もが畳のことなぞ関心もよせていないのだった。 借家の大家はいい人だ。貧乏人の一家を破格の家賃…
●ただ坐ることに打ち込む4 数日後、石澤さんと電話で話す機会があって、あなたを見かけたと思ったら向井秀徳だったという話をした。すると相手は複雑そうに、 「向井秀徳は大好きだけど、似てるというのはなんだかうれしくないよ。今日は『崖の上のポニョ』…
●ただ坐ることに打ち込む3 人は孤独でない方がいい。お腹がペコペコでなかったらなおのこといい。というのも実のところ私は空腹のため卒倒寸前であるのだった。背中のリュックサックの中にしのばせている、先ほど格安で購入した無印のチーズドッグを食べよう…
●「ただ坐ることに打ち込む」2 四方八方、自宅から車で五分程度で移動できる範囲が、彼の世界だ。五分ほど走った場所にある工場でブラジル人と汗みずくになって働いて、家に帰って白い飯と大根の菜っ葉と生ブシ(※)さえ食べていれば、彼はそれで仕合せだ。…
●ことのはじめに以前かちゃくちゃは彼女を「名古屋のN森」と紹介したが、「N森」は「名古屋近傍」の人でないようなので、以後「愛知のN森」とする。あるいは本人に言わせれば、「愛知」でもなく、「三重と愛知の県境」、もしくは「三重のN森」だと名乗るかも…