group_inouはライブハウスに小さな嵐をもたらし続けた。そしてその嵐はいま…

breaststroking2007-08-10


アンダーグラウンド音楽の世界の素晴らしいところは、優れたバンドにきちんとした評価が与えられ易いということではないか。世評が、広告やメディアの影響によらず、ライブハウスで生で見たリスナーの間、またはバンド間の口コミで作られていくから、間違いがない。

group_inouhttp://g-a-l.jp/group_inou/)のここ2年ほどの快進撃も、彼らの熱のあるパフォーマンスを現場で見た聴き手の素直な反応によるものだ。一つ一つのライブは、観客が100〜200人規模のものが大半で、ヘタしたら40人とかのレベルのものだって何度かあっただろう。しかし常に目の前の敵を寄らば斬るの姿勢で、都内ライブハウスのそれっぽい企画を回り続けているうちに、group_inouは気が付いたらメディアの媒介なしで、界隈をうろついているアーティストやリスナーであれば、誰もが気になり、ライブを見たいと思うアーティストに、なっていたのである。本当に。

そういった、シーンを掻き回している感じをよく表しているimaiのことばを、『nobody issue 25』(http://www.nobodymag.com/)のインタビュー記事から紹介する。

ただ(引用者加筆:メタモルフォーゼhttp://www.metamo.info/の)会場では別枠にディーゼルのブースが作られてて、僕らの前でもあまりお客さんは居なかったんですよ。でも、とある人気のあるミュージシャンの出るステージがあったんですが、その場所に行くまでの経路に僕らのステージがあったんです。それが僕らがちょうどライヴをやってるときに重なって、人がムチャクチャ来まして(笑)。僕らはそこでやっぱりムチャクチャやってたんですが、そしたらお客さんも「ウォーッ!」ってなって。そういう風にライヴでは色んなところに乗り込むみたいな感じが好きなんです。


しなやかに踊っていると思えばチェルフィッチュみたく奇矯な動きになったり、ハードコア野郎のように衝動的反復動作になったりしながら言葉を吐き出すMCのcp。ケンカっぱやそうだが、腕っ節にはまったく自信がなさそうだ。彼は、対象ははっきりしないがいつも何かへの苛立ち(「最強の敵は自分の中にいる」ビートニクス的・自身らの現状への不安?)をリリックやMCで表明している。そして長身を折り畳むようにして、小さなつまみをいじるトラックメイクとエレクトロニクスのimai。エイフェックスツインを尊敬し、ふわふわした捕らえどころのないビートが面白い(けれど踊れる)職人で、見た目は神経質そうだが、仲良くなるときっと良いひと(いつもMCが長くなるのは愛嬌)。

Tシャツ姿の二人はいつも文系大学生みたいで、「アーティスト」という言葉が感じさせるオーラは絶無。たまにシンプルな演奏形態と見た目から、「時代を映すような下流風ユニット」と大変失礼なことを考えたりもした(今日imaiがハードコアバンドでドラムをやっていたと知って興味深かった)。

先月、フジロック三日目(7月29日)の23時30分にメイン会場から少し離れたルーキーアゴーゴーの小さなステージにgroup_inouは出現した。いつも通り簡素なセットで短いが熱い演奏を展開した。cpはフジだというのに調子に変わりなく、落ちていたミラーボールを抱え込んだり会場に飛び込んでラップしたり最前列にいたおれになぜか抱きついてきたりした。imaiは「来年はレッドマーキーでやりたい」というような強気の発言。最後は機材を乗せたブースを蹴って倒してしまい、機材もすべて床に激突してスタッフを慌てさせた。ライブ中振り返ったら、ゲリラ的な始まりだったのに、真っ暗な辺りを大勢の人間が揺れ動いていた。つまりやっぱり、group_inouはいつも通りでなく、興奮していた。

group_inouはがむしゃらに(2004年以後?)nestのフロアで、余所のバンドの企画のオープニングで、音量がロクに出ない(2006年11月の)スーパーデラックスで、攻撃的で前のめりで、そして若さあふれるパフォーマンスを繰り返してきた。その結果として、2006年夏のDiesel-U-Musicアーバンヒップホップ部門優勝と、その副賞としてのメタモルフォーゼ出演、そしてこの夏のフジロックという一連の目が離せない流れがある。またその間にも、依然ひんぱんにアンダーグラウンドな面白い企画に顔を出しつづけている(アンダーグラウンドではないけれど、3月のryukyudisko、5月のPerfumeとのロフトでの対バンを見逃したことが今も悔しい。どんな反応を他流試合のフロアにもたらしていたか、おれは見たかった)。

きょう8月10日、代官山unitの地下フロアまで階段を降りてきて、目の前の人が溢れかえる光景を前に、虚名とか流行でなしに実力本位で表現をしてきた彼らを改めて思った。group_inou初めての自主企画、GAL presents 『PR vol.1』である。

前述のとおり、常にinouのライブは余所が企画する他流試合だったから、自分たち目的で来ていやしない大部分の観客を挑発した。印象的なのは、cpが必ずライブのなかで一度はやる、客席への飛び込みだ(nestではいつもフロアの中での演奏だったので、客席の隅に小さな風穴を開けるようにスペースをとって、円の周をぐるぐる周りながら客を挑発していた)。客席に突っ込んでいって、フロアに小さな嵐を起こして客の目の前でラップをする。それは、とても小さなアンダーグラウンドの音楽界において、inouの二人と観客の間の距離のちかさを表してもいたし、また近いからこそ、観客と大きく異なる彼らの才覚と上昇への志も強く感じさせたのだった。

imaiの愛嬌のあるエレクトロニカにcpが口語的で軽快でエロいラップ(大半のことばは聞き取れないし、ラップと言っていいかはよく判らないが)を載せる。エレクトロニカとヒップホップの融合というアイデアも見始めた当初は新鮮に感じたが、それ以上に二人の愛嬌と、破れかぶれにやってやろう、どうだ受けて見ろ、という意志の力に圧倒された。自分が初めて見たのはにせんねんもんだいの企画の対バンか何かで、2005年か、2004年のことだったと思うが、その時ステージでなく、フロアの片隅でパフォーマンスする二人の姿は、カッコ良いというよりかは凶暴で必死なものだった。特殊な形式のユニットを取り囲みながら見つめる観客はあるいは熱狂し、あるいはこの人たちはああ若いね、といったうすら笑いし、あとは無反応、といったものではなかったか。しかし今日、unitという大きな会場で、彼らのパフォーマンスは数百人の観客に注目されていた。

参加した対バンの面子が第一、彼らのこれまでの活動を象徴するものだった。にせんねんもんだいDE DE MOUSE、□□□、サイプレス上野とロベルト吉野buffalo daughterといった顔ぶれは、group_inouが先鋭的なアンダーグラウンド音楽の企画に手当たり次第乗り込んでいって大暴れをしつづけた活動の証明である。おれはこれらの面子が彼らの初めての自主企画に集結したことを、何よりもしっかりと記憶したい。

ロングセットということで、6月のみるくでのDJぷりぷり presents 『ぷりぷりTV』と同様に、gaku urayamaを迎えてのリミックス曲の演奏もあり、アンコールで最初のリリース曲「BPA」もやった。フジで床に激突したサンプラーが本番で故障したというトラブルはあったが、音は確かにいつもよりちょっとヘンだったが、勢いで乗りきった。

斜に構えている彼らにしては珍しく、ここに来ている観客に支えられてここまで来たというような発言が何度かあった。グッときたんだろうな、当たり前だ。ただのファンのおれまでグッときている。詞についてあまり語らないCPだが、穏やか目の新曲の演奏後、客のリアクションがあまりはっきりしなかったことを受けて、「この曲は新曲で、海に出ていこうとする人間の気持ちを歌った気宇壮大な曲である。自分らに重なっている」というような意味のMCを慌ててしていた。おれはこうしたドラマチックな曲が出てきたことに驚いた。しかも執拗に反復するサビの部分は、ラップと言うよりは固有のメロディを持った歌ものになっているのだ。ちかぢかテレビで彼らの曲が流れる日も遠くない、かもしれない。何しろポップなのだ。

繰り返すがNESTのフロアで苦笑混じりに見られていたこともあったことを思い出すと、今日の、そして先日の真夜中のフジロックや、明け方のぷりぷりTVといった舞台でフロアを熱狂させている彼らの姿は本当に感慨深い。二人自身がきっと、ここまで順調に快進撃が続いていることに驚いている。一方で、ひどく自信家になっている。このままどこまでも走り抜いてやろうという意欲が伝わってくる。IT長者か高度経済成長期の企業人のように、二人はかなりギラついている。しかし二人の異能は確固としたもので、これからもますます進化していきそうな気配があるから、ギラギラは不快なものでも、笑うべきものでもない。若さと失うものはないという気持ち。それらが先走るのを牽制しているのが彼らの才覚で、このユニットはここからまた驀進していく。


#終演後、Limited Express(has gome?)のJJさん(http://limited-ex.jugem.jp/)にお会いした。階段の前でボロフェスタのチラシを配っていたのだ。JJさんは当然のように、チラシ配り人の先頭にいた。9月9日はネストで東京ボロフェスタ。JJさんの二度目の挑戦が始まっている(本日の日記も期するものを感じさせる。また、確かにこれぞ東京のアンダーグラウンド、という企画だった。http://limited-ex.jugem.jp/?eid=247)。