インディペンデントな音楽フェスティバルの現場報告(とりあえず完成)

※本稿で触れている企画のなかには、実際に見たことのないものもあります。誤りがあったら教えてください。

1997年の第一回フジロックから丁度10年。ロックフェスティバルはこの間に完全に文化として定着した。一方、アンダーグラウンドなところでは、メジャーなフェスに飽き足らなくなった聴き手や送り手の欲求から、インディペンデントな音楽フェスティバルや企画が急速に増えている。

ここで言う「インディペンデント」とはどういうことか。最低限、つぎの二つを満たしていることが大原則だ。

1.個人、もしくは個人同士のつながりでできた集団が運営に当たっていること。つまり興行社やメディアや代理店が手がける企画でないこと。
2.営利目的でないこと。儲けることは罪ではないが、一義的な目標であってはならない。ビジネスとしてではなく、ただただ刺激的なバンドやDJを呼びたい、それらを編成して面白い場を作りたいという、ピュアな初期衝動が企画を支えていること。

たとえば「RAW LIFE」(2004〜)は、『OK Fred』か何かのオーガナイザーのインタビューで読んだ記憶によれば、たしか一人の編集者(追記:新刊『ライフ・アット・スリッツ』編著者の浜田淳氏)が、携帯のメモリに入っている知り合いのミュージシャンやDJを片っ端から呼び集めてタイムテーブルを作り、会場も、たとえば二年目などは、「廃墟+○○」といったグーグル検索によって探し出してきたという、究極のDIYなフェスティバルだったはずだ。友達がやっているバンドがつねに世の中で一番カッコいい、それは決して身内びいきではないというようなことを、磯部涼の本でブレックファストの森本雑感かだれかが言っていたが、それを想起させるようだ。だが、ゆえに、RAW LIFEは大変な赤字を出し、2006年の3回目で休止状態になったと聞いている。2005年の君津の廃ビル(正しくは撮影用に貸している「アクアマリンスタジオ」というビル。サイトが面白い→http://www.aquamarine-studio.jp/)の一夜は伝説になるだろう。

http://rawlife.jp/

もしくはこれも有名な、京都西部講堂で開催される「ボロフェスタ」(2002〜)。Limited Express(has gone!?)のJJ、ゆーきゃんら、京都に住む友人同士がnishiki-yaというイベント集団を結成しスタートさせた(追記:フェスと団体の名称の由来は「ボロは着てても心は錦」から。DIYの本質にせまる言葉だ)。

http://www.borofesta.com/

功名心や野心やビジネスマインドを抜きにしたオルタナティブDIYなフェスとして、今にいたるまで続いている。今年は「8月ボロフェスタ」、O−NESTでの「東京ボロフェスタ」、「ナノボロフェスタ」といった複数のフェスティバルが派生的に生まれ、8月から10月まで、精力的な企画展開をおこなった。「なぜここまでやるか?」というくらいの熱気と排気量だ。
http://www.borofesta.com/artist_timetable/boro.html
なお、JJは盟友のズボンズのドン・マツオ、DJの西村道男とともに、「eetee」(イーティー)というオールナイトイベントを先月、スタートさせた。下北沢のbasement barとWEDGEという二会場を使った、ライブ+DJという今日的スタイルのパーティで、ボロフェスタと同様、DIY感覚あふれる企画になっている。
http://eetee.net/1123/

eeteeと同じような、意欲的なアーティストが仕掛ける企画ということでは、宇波拓の服部ミュージックフェスティバルも入ってくるだろうし、超メジャーバンドに成長しても、なおかつインディーとメジャーの接合に執着するBEAT CRUSADERSによる「Boyz Of Summer」という企画も思いついて際限がなくなる。このあたりは境目の判断が難しい。

つづけて、アーティストが主催したものをいくつか。
昨年11月、green milk from the planet orange、henrytennis、タコボンズといったバンドの、現在の東京の音楽環境に対して強い問題意識を持った若い音楽家による、「みんなの戦艦リンキーディンク」といったオールナイトの企画があった。
http://homepage2.nifty.com/tacobonds/senkanrd.html
http://bahamaba.com/?eid=3

これは下北沢のリンキーディンクというスタジオ(一時期ポストロックに圧倒的に強かったライブハウスのERAが入っている)の大半を、一晩中借り切って行う、相当気合の入った、打ち上げ花火的な、ユニークな形態のフェスティバルだった。ふつうスタジオと言えば、バンドが練習をする場だが、DIYな発想のひろがりとともに、スタジオライブという形式は増えてきている。安く借りられ、ライブハウスからノルマを要求されることもなく、バイトで食いつないでいるようなアーティストには都合が良い。高額な会場費も強制的なドリンク代も発生しないから、チケット代もかなり割安に設定でき、客もあそびに来やすい。細かい例だが、「まる福」というバンドをやっている方が白金台で「ファーストステップ」という小さなスタジオを経営していて、以前そこでにせんねんもんだいのライブを見たことがあった。
http://homepage3.nifty.com/tenzoufuku/sakusaku/5_1.htm

で、このスタジオライブの発想をさらに発展させたのが、この企画が実現させた「貸しスタジオを使ったロックフェスティバル」である。
今でもまざまざ浮かぶのが、深夜スタジオで、ファミコンやスーパーの店内BGMをバックに、床を痙攣しながらノタ打ち回る「音がバンド名」のパフォーマンスを、中原昌也をふくむ4〜5人の客だけで見ていた時のことだ。また、ギターのネックがこっちにぶつかるくらいの距離で見たamazon salivaも思い出す。

アブラハムクロスのソウジロウが主催する、公共の場所でハプニング的に行われる、ダンスカルチャーに共感を持つハードコアバンドのフェスティバル「CHAOS PARK」については前に書いた(http://lot49.lolipop.jp/mt/archives/2007/09/chaos_park_92.html)が、これにいたってはドリンク代どころか、エントランスまでも完全にフリーだ(公共の場でゲリラ的にやるのだから当たり前だけど)。

DIY文化とハードコアの考え方に親和性があることはよく言われているが、無力無善寺で2003年から何度か行われている日本ロックフェスティバルは、脱力系DIYとして突出している。ハードコア系のイベントではないものの、そのラディカルさはカオスパークに匹敵する。
http://www.geocities.jp/allhanshinkyojinyasukiyo/nrf/

いくつかのバンドのライブを撮影してライブDVDにして、他の流通に乗せずに独占して販売するなど、ビジネス的な志向も強いので、完全にインディペンデントではないが、高円寺の特殊レコードショップ「円盤」の田口史人が、O-NESTを会場にしてつづけている「円盤ジャンボリー」も、これらのひとつと呼べる。
http://www.enban.org/

また、メディアレイピストこと宇川直宏が、自分のオフィスの中に設けてしまった、理想のクラブ「Mixrooffice」で行われる同名のイベントも、バンドの出演は今までのところないようだけれど、上述の二点は満たしている。
http://mixi.jp/view_community.pl?id=663965

音楽専門のSNSrecommuni」が新宿motionとMARZの両方をつかって開催した「recommuni PRESENTS " rhizome - rhythm FINAL "」(2007)は、分類としてはこのあたりと近いか。リミエキ、サンガツ、京都のHarpOnMouthSextetなど、見たいバンドがたくさんあったが、台風の接近で断念した。
http://recommuni.jp/home/
http://recommuni.jp/event/

雑誌の出版、単行本の翻訳出版、イベントオーガナイズなどを手がけるmapが今年6月に、白金高輪の正満寺というお寺で二日間やった「map presents "寺へ"」も、厳密にはまったく無名の個人や個人の連帯が行ったものではないが、「これぞインディフェス!」と快哉を叫べる内容だった。寺で行うというコンセプト自体の面白さもさりながら、地下で騒々しいバンドがやり、本堂でアコースティックなバンドがやるという区分け、そしてお寺の地下にもぐって行ったり、本堂であぐらをかいてバンドを見たりといったもろもろが刺激的だった。本堂で見たHOSEは、会場とバンドが完璧に結びついたライブとして記憶に残る。
http://www.mapup.net/terae/top_flame.html
http://mapupnews.jugem.jp/?eid=106

見たところ明らかにインディペンデントなのだが、もはやロックフェスなのか何なのか分類がむずかしいものもある。DJぷりぷりという人がいて、美大かどこかの大学生らしいのだが、面白いDIYなイベントではかなりの確率でこの人を見かける。強烈なバイタリティを持った人で、今年6月の恵比寿みるくでの「ぷりぷりTV」というオールナイトのイベントは、この人の企画エネルギーが爆発していた。
イベントは、架空のテレビ局の架空の番組の連なりという設定で展開された。つまり、2つのフロアが2つのテレビチャネルになっていて、地下2階は「音楽番組」、地下3階が「教育番組」という風に分かれている(配布されたタイムテーブルもテレビの番組表のようなデザイン)。後者は飴谷法水とぷりぷりの対談(ぷりぷりの勉強不足、天才的な聴き下手でまったく冴えなかったが)、雨宮まみの講演、鉄割アルバトロスケットの芝居(?)など、90年代のサブカルが放っていた熱気や臭気を思い出させるような、猥雑さととっちらかりぶりだった。かつ、B2Fのラインナップも54-71、HarpOnMouthSextet、藤乃家舞など、隙がなくすばらしいのだ。コンセプトの面白さと実現させる馬力は、個人企画のものとしては超一級。明け方のgroup_inouのライブは、フジロック直前という時節ゆえか明け方のナチュラルハイゆえかまたは出番が押しまくったからか、暴力的で突き抜けていた。
http://homepage2.nifty.com/puripuriTV/index.html
http://assaito.blogzine.jp/assaito/2007/06/tv_42ab.html

DJぷりぷりはほかに、「ぷりぷりの温泉」という企画も手がけている。名の通り、銭湯で行われる超異例のフェスティバルで(ライブであれば「風呂ロック」がありましたね。 http://ip.tosp.co.jp/i.asp?i=furorock もちろんこれもDIY。フェスではないが)、第一回は昨年末、蒲田で開かれた。次回は今週末、東大和で開催される。
http://zoom-yama.seesaa.net/article/66675604.html

(追記:DJぷりぷりの八面六臂の企画力とバイタリティに触れたものは、活字、ネットを問わずおどろくほど少ない。インディマガジン『REVIEW HOUSE』http://www.reviewhousemag.com/magazine/ 創刊号の杉原環樹「非熱狂的空間の引力」は、活動紹介だけでなく、肉声や「ぷりぷりTV」のタイムテーブルを載せていて、充実している)

そこに住む人がHIGHTI(ハイチ)と名づけ呼ぶ住宅が墨田区にある。元々町工場だったものを改修したものだそうで、風変わりな民家で、不定期に「八広ハイチ」(やひろはいち)という企画を行っている。hununhun、54-71hair stylisticsなど、民家とは思えないほど豪華な顔ぶれが出演している。
http://highti.jugem.jp/
http://highti.jugem.jp/?cid=2

渚音楽祭」(http://www.nagisamusicfestival.jp/)や「MOUNTSYSTEM」(http://www.primafter.com/mountsystem/)、「夏びらき」(http://www.natsu-biraki.com/http://natsu07.exblog.jp/)などは、どういう人たちが主催しているかおれはまるで知らないが、前出の企画と比べると運営も各種設営もしっかりしているし、企業の協賛なども複数あるようだからインディペンデントとはいえない。出てくるバンドや企画の面白さでいえば特に最初の二つは、十分インディペンデントなのだけれど(「夏びらき」はラインナップにやや興行のにおいがする)。

今月の『Remix』は「このハードタイムを生き抜くラッパーたち」と題した特集でやけのはらを取り上げている。
http://www.bungeisha.co.jp/bookinfo/remix/article_270_36.jsp
この号の表紙と巻頭はハローワークスで、彼らは今月の『bounce』にも出ているが、その取材記事によると、職安をもじった名前をもつこのユニットは、<<結局はせっせと働くしかねぇだろ?>と、重くなった足をまた一歩踏み出す>ような<シリアスなリリック>の曲があるらしい。やけのはらはいつもサンダル履きで、円い目であたりに視線をさまよわせ、フロアでは見た目、社会から降りちゃった人のようだ。ハローワークスの声がとどく範囲にはいなさそうだが、刺激的でインディペンデントなフェス、パーティには必ずと言っていいほど出演している人物。彼が本拠にする江ノ島の<POP喫茶>オッパーラも、アンチ商業主義的でDIYな匂いがする。
http://www.oppa-la.com/
http://oppala.exblog.jp/
ただしくはオーガナイザーというより単なるハコなのだが、使い勝手が良いことと、江ノ島と海をガラス越しに一望できる解放感から、面白い人が常に出たり入ったりする刺激のある場所になっている。また、オッパーラは毎年夏に、目の前の江ノ島へ渡る弁天橋の砂浜にて、「弁天ROCKERS」というハードコアの野外パーティを行っている。
http://oppala.exblog.jp/5912849/

あと、行ったことはないけれど、さらに地方に目を向けると、手作りの企画やフェスはたくさんある。

山形を拠点に精力的に活動するバンドSHIFTは、地元でDIYなフェス「do it!」(2005〜)を今年9月に開催した。ちなみにリミエキはここで再始動した。
http://doit2007.exblog.jp/
関西アンダーグラウンドの濃いい人たちが、大阪のかなり辺鄙なところでやった野外フェス「ごちゃ祭り」。
http://gocha.web.fc2.com/
これも関西。10月に行われた「NEW PICNIC」。
http://new-picnic.info/index.html
岐阜で開催されている「OTONOTANI」。WEBがけっこうしっかりしている。完全にインディーなフェスかは不明。友人はここで毎年あん摩師をやっている。フェスにあん摩!
http://www.otonotani.com/
このあたりは、探せばいくらでも出てきそうだ。

12月1日と2日、横浜で開催されたDIYなフェスティバル「どうにかなる日々」の紹介をしようと思って書き始めたが、まくらのつもりが止まらなくなってしまった。
ここで一度切って、レポートはまた次回。

#08年9月21日、その後の発見などを若干追記して補足とした。