まがじなりあ・あちらこちら・ちらしやフライヤーもどうかしら1 「モールスまつり」のチラシに音楽と文学を感じる

breaststroking2008-03-23



3月12日、LOCUST(サンディエゴ)7年ぶりの来日公演の初日をSHIBUYA O-NESTで見た。LOCUSTは4人組で、全身をグレーの布で覆ったイナゴ衣装を着て並ぶたたずまいがDEVOみたいで面白い。
一緒に連れてきたスタッフもなぜか同じ衣装で、専属カメラマンはつねにステージでイナゴ衣装で動き回っていた。脱力を誘うコスチュームとちがって曲調は、アホかというほど速いし展開も複雑で激しい。しかしこのバンドの好きなところは、そんな高速変態変拍子に乗って、ボーカルがめまぐるしく切り替わっていくところだ。ドラム以外の3人(ドラムも怒鳴っていたかも)がつぎつぎボーカルを取り、時にはコーラスし、怒声のようなものを発する。そのめくるめく展開におれはワクワクした。ジャンルや曲調というよりも全体的なたたずまいが近いんだろうが、SHELLACDMBQを想起した。いずれにしろ「USインディの生きた化石」というようなバンド。

今回はツアーということで無数に公演をして回るようだが、dotlinecircle(先月の『スタジオボイス』で主宰のカトマン氏がインタビューされていた)の企画ということで、対バンを務める国内勢が非常に豪華。この日もgroup_inouMelt Banana、あと大阪からdamageというバンドが駆けつけた。damageは人力エレクトロミクスチャー。不良っぽく猥雑な雰囲気の2MCと、22時手前くらい、二軒目を探す足取りで歩く飲み屋街における、ネオンと呼び込みが放つようなギラギラした曲調が相まって、このコッテリ感はまさに関西UG!と思っていたら、「ここ大阪みたいやろ?」というようなMCがあって笑った。バンド編成はまるでちがうのだが、neco眠るZUINOSINなどとおなじく、眼を瞑っていても大阪地下音楽と判る匂いがある。以前京都のLimited Express(has gone?)のJJさんは、group_inouの自主企画を見て「東京っぽい」という感想を漏らしたが、1番手だったinouはdamageとくらべると本当にこざっぱりとしていて、地域対比が音とたたずまいでできてしまうのが面白い。

書き忘れていたが、この公演はほんとうに外国人が多かった。ネストは企画にもよるが他のライブハウスと比べると圧倒的に白人の割合が高い。しかし今日はこれまで見たライブでいちばん。10〜15%は白人だったと思う。melt bananaになったら前列の1/3くらいが彼らで埋まって、しかも自身の流儀で盛り上がるから、メルトバナナはLOCUSTとスプリットも出しているし、海外転戦の実績といえばそうなのだろうけれど、ここどこの国かって思った(ひとつ前が大阪っぽかっただけに)。

帰りはいつものように、胸躍る公演の報せがぎっしり入ったフライヤーの束をもらう(3月は特に、ネストを中心に面白い公演が目白押しだ)。そのなかで、界隈ではベテランのバンド・モールス(http://www.moools.com/)の自主企画「モールスまつり」のフライヤー、というかチラシに眼を釘付けられた。小さいサイズでなんのイラストも描いてないのに、モノクロなのに、このチラシは異彩を放っていた。それはこのチラシの上部ほぼ半分を、びっしりと謎の縦書きテキストが覆いつくしているからだ。改行位置は原文そのままで、およそ2/3を転載する。

我らモールスまつりは、例える必要はまったくないがあえて将棋に
例えるなら『今から突入します』の留守電がマスコミにリーク
されて尚いっそう高ぶる振り飛車に、末端神経から順々に投
了していく奨励会のていたらくからの卒業である。
そして今回17回を迎えるモールスまつりにおいて、開催
回数が素数、すなわち1とそれ自身でしか正の約数を持
たない時(17はもちろん素数のホームラン王である
が)、音楽という名の穴熊からスパークするレッサー
パンダの風太竜王の慟哭は直立猿人ならぬ永世直立
名人としての走り込みによる下半身の強化を意味す
る。動くサッカーである。魅せるサッカーである。
我々モールスまつりは洞爺湖の山荘では決して解
決することのない王手飛車取りを突きつけられて、
王を手放す衝動にかられっぱなしのまま6時半
オープン7時スタートの4者会談を渋谷O-NEST
で排出量ギリギリまで排出するのみである。
(渋谷をどげんかせんといかん)

この文章は、真ん中くらいのところで(引用した中では最後のところあたりから)開演時間と出演バンドを非常に判りづらく伝えてはいるけれど(※1)、それを除けばまったく公演内容とリンクしておらず、むしろまぎらわしい(言いようによってはライブで各バンドが発する創造性と猥雑さが混信した雰囲気がよく出ているとも言えるが)。

しかしそのなんの役にも立たない自動筆記的な戯文(とてもきびしい眼で見れば、ウェブで紹介する戯文としてはもうひとつ、詰めが甘い文章なのだが)に労力を費やしてしまうあそび心をおれは肯定する。たぶん当日の彼らの演奏と、下手したら同じくらいのコンセントレーションで書き上げてしまった一生懸命さを愛する。

そして重要なことに、この文章は、モールスのウェブサイトのどこを探しても、読むことはできないのだ(※2)。チラシはチラシで見ろ、純粋なあそびというのは損得や経済効率を越えてこういうものです、というメッセージを、モールスまつりのチラシは我々にしずかに訴えかけてくるようである(おれちょっと疲れてますか)。

※1 第十七回モールスまつりは3月29日、54-71赤い疑惑アゴーレーカルキンを迎えてO-NESTで行われる。
※2 と書き上げてウェブを見てみたら全文がアップされていた… →http://www.moools.com/moools_news.html