1-1 福岡では、毎晩がお祭り騒ぎ状態みたいだ

福岡の3ピースバンドIN JAPAN(http://www.innjapan.info/index.htmlid:innjapan)は、矢沢永吉X-JAPANを心底崇拝して彼らなりに自分らの音楽にそれらを取り入れ、結果、今までだれも見たことないような、脱臼したハードロックをやることになった。ナードみたいなルックスにむりやりロックスターのコスプレと、演奏技術よりもロックマインドが3周くらい先を行っているゆえの、ストレンジでつんのめるような狂騒感がINN JAPANの魅力。「ほそしくん VS ふとしくん」なんつって、詞世界もクレイジーだ。ラウドな曲調と合ってねえし。

彼らが日本のアンダーグラウンドな音楽シーンのなかで一躍有名になったきっかけは、一般にはDE DE MOUSEがブレイクしたフェスとして記憶されている2006年のRAW LIFEである。クラバー、トライバルなダンスミュージックファン、ハードコアのお兄さん、ヒップホップ青年ら、人種の坩堝状態の湾岸RAW LIFEINN JAPANは、99%がこのバンド初見であろうオーディエンスたちに、肉と肉がぶつかり合うような激しいモッシュと、工場街らしい茶色の砂煙を発生させた挙句、その必然的な流れで胴上げされたりして、大変に感動をもって迎えられたのだった。おれなんか、INN JAPANのライブ後、まだつづいているRAW LIFEを夕方速攻あとにして、彼らがその晩、ダブルヘッダーで出演するとメンバーのMCで聞いた秋葉原CLUB GOODMANのイベントへ、押っ取り刀で急行してしまったくらいだ。たしか円盤がらみの企画だった気がするが、このグッドマンでのパフォーマンスも度肝を抜かれた。なぜならその夜彼らが行ったのは、新木場のハードロックな演奏と100%異なる、リズムボックスやCDをつかった、カラオケ・テクノポップ歌謡ショーだったのだから!

その日から一挙にシーンの(どこの?)先頭に立ったINN JAPAN。しかしそれからバンドは、リーダーのしゃんぺ〜が福岡にとどまるも、他の二名がどうやら関東に出てきちゃったらしく、空中分解状態となる。福岡を中心としたライブ活動はしばらく続いたのかもしらんが、少なくとも東京で彼らの大躍進を待ち焦がれる自分は、それ以後目だった活動を目にすることができず、さびしい思いをしていた。INN JAPANRAW LIFEでカルトロックスターの道のトバ口に立ったが、そこを最頂点としてバンドの活動は失速してしまった。

それから2年弱。INN JAPANが福岡のスタジオで、復活する。ライブのタイトルも、「INN JAPAN RETURNS 2008 NARIAGARA〜攻撃再開〜」。しゃんぺ〜が愛する矢沢とX-JAPANを即時連想させる良いタイトルだ。しゃんぺ〜さんはX-JAPANの一連の再結成ライブを、東京でもれなく目撃したらしい。福岡の人なのに。それもあっての、期するものあっての「攻撃再開」なのだろう。おれはありもしない霊能力を使ってでも、このライブを目撃したいと思っている。

http://www.innjapan.info/returns2008

おなじ福岡では、INN JAPANとも関係のふかい、ファンクとダブをロックに落とし込んだ4人編成の祝祭的なロックバンドnontroppohttp://www.nontroppo.jp/)のリーダーであり、「ヨコチンレーベル」のオーナー、ボギーの継続的な活躍が光っている。ボギーは演者として、エンターテイナーとして一級の、福岡アンダーグラウンドを代表する名物男だが、その評価に負けないくらい、同界におけるオーガナイザーとしての活躍も光っている。たとえば天神のライブバーVooDooLoungeで毎週火曜に行われている企画「ラウンジサウンズ」。

http://www.geocities.co.jp/MusicStar-Keyboard/8256/LS.html

4バンド以上が出演する対バン企画だが、何より、毎週火曜にかならず行われているというのがすごい。
ボギーはここではバンドで出演するのでなく、デモテープを聴いたり、よそでライブを見たりして、気になるバンドを招聘する企画マン、オーガナイザーに徹する。そして同時に、最高のオーディエンスとなり、且ついちばんの酔漢となる。

福岡の創意と茶目っ気とガチな真剣味にあふれたアンダーグラウンドなバンド群は、文字通り日夜増えたり減ったりを繰り返しているが、そんなバンドの多くが、ボギーにデモテープを送り、ラウンジサウンズへの出演を待望するのだ。一部、常連バンドもあるようだが(いまは「八洲」というバンドがいちばん光っているらしい)、毎回ことなる、ボギーの審美眼に適ったユニークなバンドたちが、大暴れしているのだ。玄海の海の泡のように離合集散していくアンダーグランドなバンドたち。そしてその土壌となる福岡という場所の懐の深さ。豊かさ。ブードゥーのステージに上がるのは、いわゆる<めんたいロック>系統のバンドではないが、福岡の面白さをこの企画とボギーという人物は、相当力強く下支えしているはずだ。

ボギーのオーガナイズする企画はラウンジサウンズだけではない。忘れてはならないのが、nontroppoの主戦場である連続企画「ハイコレ」。7月13日のライブで、ハイコレはなんと、90回目を記録した。その時のサブタイトルは「music from the mars VS nontroppo」で、付き合いの長い盟友mftm(http://www.myspace.com/musicfromthemars)を東京から招いての2マンライブだった。どちらもトランス感覚のある技巧的なダンスロックバンドということで(ボギーが自身のバンドにつけた惹句によれば<ありもしない架空のリゾート地へといざなうちょっぴり危険なトロピカル・アヴァン・ダンスミュージック >)、ボギーとmftmリーダーの藤井さん(id:FUJII-FTM)による弾き語り前夜祭もふくめ、相当盛り上がったようだ。ちなみにnontroppoは9月に東京でワンマンライブをやる。希少な機会で、今から楽しみだ。去年の夏、江ノ島OPPA-LAで見た明け方のライブもすばらしかったが、忘れられないのが、2年前にグッドマンで見たとき(いま思い出したが、これが東京の「ハイコレ」で、そこにRAW LIFEで武勲をあげたばかりのテクノポップINN JAPANが出たんだった。そしてまた思い出したが、このイベントでの彼らは「電子音楽 INN JAPAN」名義だった。人を食ってる)。トリの出演で、演奏中にステージから焼酎のビンが下りてきて、フロアのみんなで踊りながら回し飲みした。そのときの記憶は強く残っている。そしてそのシーンがおれの福岡についてのイメージとして、ある(会場秋葉だったけど)。

あとよく知らないけれど、ボギーはさらに、「火曜局」というDJイベントにも名を連ねている。音楽について、100%なのである(書き忘れたがハイコレの際に配布される、「ハイコレ通信」という手書きフリーペーパーもかなり熱量がある)。そしてジャンルも生息地もちがえど、そういう空気のうすくッて、際どい世界に立っている人のたたずまいは、なぜかみんな似ている気がする。ZAZEN BOYS向井秀徳にしても、V∞REDOMSのEYEにしても、ASPARAGUS渡邊忍にしても。

…そんなまじめな話はいいとして、見たことも無い風体で、聞いたことも無い音を出すバンド、そして彼らがつくる音楽が、まだ未知の、それか何度か数えられるくらいしか訪れたことのない福岡という都市の一角で今夜も鳴っているのだと思うと、うれしいような悔しいような、そんな竹中直人みたいな気分になってきたりはしませんか?(おれはなります)