「LIVE JUNK」でさらに進化したLimited Expressを見た


今日も渋谷駅。タワレコeastern youthの極東最前線のコンピと、nhhmbaseの『波紋クロス』、あと『大人の科学マガジン シンセサイザークロニクル』(学研)、「MUSE」特集とそれに含まれる米原康正インタビューめあてで『EYESCREAM』を買った。時間がないのでイソイソと。

nhhmの新譜はタワレコ特典として、54-71とのインストアライブのチケット、あとCD-Rが付いていて圧倒的にお得。その晩さっそく聴いてみたが相変わらず他では聴けない、あたらしい音がしている。骨と皮まで削ぎ落としたスカスカのポストロック文脈の演奏に、ハイトーンのどこに飛んでいくか判らない魔法使いのようなボーカル。その基底的な部分は変らない。だがなんだかだいぶ、ポップになった。前作はミニアルバムだったのでバンドの幅広さが掴みきれない感じだったが、引き算の美学的演奏方法でやっていながら、これだけ多彩な楽曲を繰り出してくるのは不思議。ライナーノーツで高橋健太郎が書いているが、吟味して聴くと細野晴臣とか矢野顕子に通じるような日本のある種のロック、ポップスの伝統上にあるという雰囲気が確かに感ぜられる。なんでこんな みょうちきりんな方法論でやっているのに、清涼感のあるシティポップみたいなものが出てきちゃうんだろう。謎であり、不気味であり、そこが面白い。いっぺん、フロントマンのマモルという人の頭のなかを覗いてみたいもんだ(批評誌『REVIEW HOUSE』創刊号には彼らのインタビューが掲載されているがおれまだ積んだまま)。何遍でも聴ける、よいアルバムですね。

渋谷LUSHで「LIVE JUNK」。この企画は、Limited Express (has gone?)のものだが、今回は福岡のfolk enoughのレコ発ツアー最終日ということで、フォークイナフの人がどうやら自分らの好みでブッキングしたらしい。ラッシュは初めておとずれたが、去年くらいから変った企画をたまにやっているので気になっていた。宮益坂を上がりきる手前を左折した先にある。路地裏の雑居ビルの地下。なんか入っていく感じがあんまりドキドキしないが(こういうの大事)、なかは音もハッキリ聴こえるし壁沿いにソファなんかも設けてあるし狭いながらもバースペースもあるし入ってしまえばなかなかよい環境だ。

会場は60人くらいか。ユカリちゃんの旦那であるレスザン谷口氏ももちろん来てる。uhnellysは遅れて見られず。二組目がLimited Expressで、もちろんこのバンドが見たくて来ているのだが、びっくりするくらいの横綱相撲だった。ぴりぴりした感じが一切なく、ほがらかに、のびのびやっていた。リミエキのライブはいつもトップギアで、だから危うい感じだったり破滅的な感じだったりすることが多いのだが、今日はそれがまるで無い。スプリットレコ発に伴い、DODDODOとの短期集中的なツアーを終えて、バンドは一回りも二回りもでっかくなっていた。ツアー前哨戦的下北沢disk unionでのインストアフリーライブ(http://blog1.musicfield.jp/du_dsk/archives/jpop/index.html)は6月11日で、それ以後、おれはツアーをひとつも見られなかった。だから約2ヶ月ぶりに見た訳だが、新曲の咀嚼ぶりはもちろん、一発目に見せた「生贄のJesus Child」のような旧曲も、立派に捉え直しがされていて新しい音になっていた。

「(ドラムが変って)一年経ってグルーヴが固まってきたから、ちょっと前の曲をやってももう大丈夫。焦ったらいけません」。ライブ後、ギターの飯田さんに率直におどろきを伝えたら、笑顔でそう答えてくれた。いろんなものが詰まった一言だ。なるほどそういうことか、「バンドは生き物ですね」って言ったら、同意してくれた。

きびきびしてるのにぐんぐんと力強いドラム、遊びごころがクリエイティビティに直結しているギター、はじけて弾んで跳ね回るベース。ユカリちゃんのベースに触らずにぶちかます高速ボーカルも、身振り手振りたっぷりでエモーショナル。とんからさんが前にラブずっきゅんの相対性理論のライブを見たとき、ボーカルの女の子がステージ中央でほとんど直立不動で歌っており、その動きのなさ、ショウっ気のなさから、期待していたほど良くなかった、ということを前に飲み屋で言っていた。それで言うとユカリちゃんには演奏、動き、ひとつひとつにいちいち華がある。

これまでの記述と相反するように感ぜられるかもしれないが、この日のリミエキのライブは、頑張りすぎず、余裕めいたものさえ見せながら、自分らの成長を実感しながらやっているように見えた。ジョン・ゾーンのレーベル・ツァディックを出発点にし、無数の自主企画をこしらえ、国内、豪州、韓国ほか、ドヤドヤ走り続けて気づけばレスザンTV。リミエキがもがきながら描く軌跡は日本アンダーグラウンドにおけるさながら股旅物語。素浪人か、行商か、それともサンカみたいなもんか、動き続けるリミエキは小さな革命をライブハウスに起こし続けている。演奏会場には、あたらしいパンクサウンドの喜びが充溢していた。しかもそれは聴く側と、鳴らす側とで、等分ずつだった。だからおれは吼えた!

MCでユカリちゃんが「耳をふさいでる子がいる」(大意)とある最前の客をイジっていたが、この日は、アンダーグラウンドな企画ではまず見かけないような、高校生くらいのふつうの女の子が最前列で4〜5人並んで直立不動していた。最前確保の姿勢である。福岡から出てきてメジャーで活躍しているDOES(ドーズ)のファンで、そうか、この人たちはけっこう人気があるのか。しかしリミエキが終わったとたんに、耳をふさいでいる子の隣にいた女子の一団が、いっせいに耳に指を突っこんで、なかから耳栓を引き抜いたのには呆れてしまった。DOESはありきたりなロックで楽しめず。

トリのfolk enoughは二つのラフを追及したい、というようなことを言っていたが、まさにroughでlaughがこぼれる福岡っぽいバンドだった。今までなかなか見られなかったけれど、また見たい。西海岸のルーズで色気のあるロックを妄想で骨肉化、といった体で、ノントロッポの架空のリゾートミュージックといったコンセプトといい、この福岡のアンダーグラウンドな2バンドに共通するリゾート志向、ある種のコスプレ感覚はなんなのだろうね?、って1分考えたら判った。フクオカは元から、日本のウェストコーストなのだ。ドラムの<サトポン>がおれのツボにはまるブスかわいさで萌えた(すみません)。

互いが認め合っていて、滅多に一緒にならないけれど、各地(福岡、京都、そして東京)で日々がんばってやっていることがなんとなく互いの心の支えになっている、そんな草の根ネットワークな連帯的雰囲気が終始きょうのイベントにはあって、アンダーグラウンドの企画はこういうところも良いよなと、ほっこりする、よい企画だった。