対決展、ZAZENワンマン、スカイクロラはみんな貶すから切ない、難波ベアーズで山本精一のインプロに酔う


2008年の夏を日記仕立てで。

■13日。

今日のがすと確実に見逃すので上野で「対決-巨匠たちの日本美術」(http://www.asahi.com/kokka/)展。日本画とか彫刻とかの贅沢なグループ展(てみんな死亡してても言うんすかね)。ほとんど時間なく小走りで見て回ったがゆっくり見てもあの人いきれじゃ困憊しちゃうよな。おなじ日本人の手になる、何百年かむかしに作られた異常な作品を見ると、どんな心象風景のもと一筆一筆描き込んでいったのか、そこが妙に気になる。インターネットやったりロックバンドやったりするのと似てる感じかな? 風塵雷神が鮮明にプリントされた悪趣味なハンカチチーフほかを購入。

■12日。

"What a long way you've come,baby!"
かつてテディ片岡はそう言ったが、おれはその言葉、そっくりそのまま2008年夏の向井秀徳に投げかけたい。来月17日、アルバム『ZAZEN BOYS 4』の発売をひかえたZAZEN BOYSのワンマンをいつものSHIBUYA-AXで見た。

出し惜しみするかのように2〜3曲(「ASOBI」「WEEKEND」あとシングルで既発の「I Don't Wanna Be With You」)を除き、ほとんど演奏していなかった『4』の曲のうち、いくつかを初めて聴くことができた。中でも「honnoji」は、今日が本邦初公開だと思うが、きわめて複雑な構造を持ちながらパンクでありダンスミュージックでもあるような、傑出した異常性を醸し出していた。誰も鳴らしたことがない音楽のようでありつつ、きちんとBATTLESとかに近似性感じさせるような2008年現在、いちばん最先端でありつつも同時代性をきちんとたたえたロックになっていて、そこがユング的観点から言って興味深いと思います。

前半は既発曲中心だが例によってアレンジが微妙に変っていて、「Don't Beat」(ほとんど別曲)とか「TANUKI」「IKASAMA LOVE」とかも変化が。やがて近作中心になり、そうなると向井はギター弾いているのとシンセに向かっているのとがほとんど半々になり、明らかに腰やみぞおちを喜ばすような横ノリの、ダンスミュージックをやるクラブ仕様のバンドと化して、AXもミラーボールが似合うオオバコと化すのだった。その風情、情感がキワキワに達するのは終盤の「ASOBI」〜「I Don't Wanna Be With You」〜「City Dreaming」という、「向井流クラブロック・夜の三部作」とでもいうべき長篇大作群の流れ(当方習作という見方、勝手にしてますので「Friday Night」は入れてません)。吉兼さんのサンプラー押下もふくみ、おおむね人力で奏でられる異常な擬似クラブミュージック。特に、これらの曲においての吉田・松下の鬼のリズムセクションはいくら言葉を尽くしても賞賛しきれない。悶え死ぬ(「ASOBI」のほぼ全編で鳴るパーカスと、シンセ音は見たところ打ち込みなのだが松下さんがどうもクリック音聴けるイヤフォン付けている様子がなく、そうするといったい彼は何を拠りどころにして、演奏を同期させているのだろう)。

この日のライブで特筆すべきは、アンコールで久々にまとまったMCを向井さんが行ったこと。瑣事と思うなかれ、ZAZENのライブではとにかく向井さんは喋らないのだ。定型フレーズと化した「マツリスタジオからマツリセッションを…」を除けば(あれはMCというより見得を切ってるようなものだ)、あとは終演時の「乾杯!」ぐらいしか喋らない。そこが饒舌なナンバーガール時代とくらべると寂しいところでもあるのだが、今回は週末に控えるライジングサンの話、アメリカで10月に演奏する予定、というな話もありつつ、目立ったのは合計4度も、来月の新譜発売をよろしく頼む的なMCをしていたことで、こんな露骨な売り込みMCをこの人がするのは大変めずらしいので印象的だった。作品への自信とセールスの不安(?)が半々なんだろう。あとは涼しい夏の歌を、ということでアンコールで、「感覚的にNG」と、すっかり相貌を変えた久しぶりの「Cold Summer」を披露。前者は激越にナンバーガールを想起させるのだがその秘密はやはり、きわめて単調な吉田さんのベースラインにあるだろうね。特にライブ全編で放縦で融通無碍な、達意のベースプレイ目立ちまくってるからよけい目立つ。後者はお盆の歌だから今日にぴったり。

終演後タワレコHASYMOの新譜、『ラブコト』、横尾忠則との対談の完全版がおまけで付いた細野晴臣特集の『スタジオボイス』を買って、54-71のアルバムがフライングで販売されていなくてちょっとがっかりしてから『H』のHさん(表記まねてみました)と109で待ち合わせして最新号の本日の発売をことほぎながら陽気に飲んで、それから一人地元帰ってMさんMちゃんカップルと25分限定で飲んで帰ってそんで昏倒。

■8月8日〜11日。

金曜夜から新幹線で大阪へ。野郎3匹、甲子園を見るための弾丸ツアーである。

つっても甲子園はおれの主たる目的じゃねえの。

同行者と別れた10日(日)は、昼からなんばをスタートに日本橋を縦断して新世界へ。観光地化がところどころで激しく進みつつも基本的には全体的にスラム、というマダラ模様の奇妙な新世界の町並みを打ち眺めつつ、通天閣の下を通過して、廃墟と化した新世界フェスティバルゲートゼロ年代屈指の刺激的なライブスペース、関西ゼロ世代の活動拠点のひとつだった「新世界BRIDGE」が入っていた娯楽施設ですね。ビルの間をジェットコースターの線路が複雑に走っていて、関西的な味付けで相当キッチュです)を見物。

串カツ屋で休憩しつつ、古本かるく買いつつ(アップダイクのエッセイ"Assorted Prose"が東京より安く見つかった)、なんばへもどり、1年ぶりにモズブックス(http://mozubooks.com/)のMOZUさんと再会。世俗から離れた、仙人的若手古書店主人に変貌していらっしゃることに静かにおどろいた(ほとんど新刊を読まない生活で、唯一さいきん読んだのが山本精一『ゆん』と言ってらして、笑うとともに、改めて親近感をおぼえる)。おすすめのお好み焼き屋(なんばド真ん中でありながら静かで涼しい)で近況を交換して、好きな古書店ジュンク堂を冷やかしてお別れ。

今回の目的のひとつは、山本精一が店主(経営者だっけか?)を務める難波ベアーズでライブを見ることであったので、MOZUさんに丁寧に教えていただいた道順をたどってベアーズへ。難波の南端の人通りのすくない通りに面した雑居ビルにある。事前に知ってなきゃまちがいなく見過ごして通過してしまうような、ベアーズへつづく地下への入り口はきわめておとなしく、存在感をつとめて消すように、通りに面して口を開けていたのであった(まだるっこしい記述ですみませんがほんとにそんな風情)。

場所だけ確認して時間があったから近傍の巨大モールへ。上層部がシネコンになっていたので時間つぶしも兼ねて『スカイクロラ』観劇。「終わらない地獄」というテーマに脊髄反射してるだけなのか、おれいたく感激してウルウルきちゃったけど、とんからさん、Sさん、Mさん初めおれの周りの見巧者は、サンザっぱら否定的な見解をくだしていて後からそれ知ったおれ、だいぶん落ち込んじゃったよ。キモは押井監督のダンディズムが受け入れ可能かどうかなのだと思うが、そのダンディズムを世間は「童貞的」と呼ぶのね。たしかに完結した美意識のありようは童貞的ロマンティシズム。

20時30分にベアーズ入り。スカムやノイズの総本山的ライブハウス。扉をあけたら山本さんとギューンカセットhttp://8157.teacup.com/gyuune/bbs)の須原敬三さんが喋っていて驚いた。今日は山本さんが出演するのである。つってももう「山本精一& PSYCHEDELIC JET SETS」は終わっていた。3組目のサンディエゴから来た、メイソン・ジョーンズという人のバンドNuminous Eyesという、ギターとドラムのインプロ2ピースがメイン。エフェクター複雑に噛ませた波のようなギターノイズが気持ちいい。

しかし今回の最大の見せ場は、そのあとの、この日演奏した全8人(東京から「水晶の舟」というノイズバンドが2組目に出演した)によるセッション大会。1コーラス、2ドラム、3ギター、シンセ、ベースという日米混成チーム。

やっぱり山本さんが面白い。立ち位置、上手(かみて)過ぎてほとんど見切れている。しかし確実に山本さんのものと判る、クリオネが不規則に泳いでるようなギターが、キョーレツな存在感でもってフロアを自在に鳴り渡っている。

冒頭、大所帯の即席楽団(ほんとに、山本さんの発意で当日急に決まったらしい)は、手探りしながらだんだんとまとまって上がっていって、やがてだれが率先して引っ張っていくでもなく(と見せつつやはり立役者はベース須原氏)統制が取れ始め、次第に涅槃の境地といってよいような濃厚なトランス世界が築かれていく様はまさに、インプロでしか出せない妙味がある。というか、おれが好きだったころのROVOにそっくりな音像で、興奮した。

面白かったのはこのセッション、延々と続くのである。以前『ミュージックマガジン』の、松山晋也さんによるインタビューで山本さんは、毎日いろいろなバンド、いろいろな場所で、延々と演奏を繰り返しているので、よくライブの最中、ギターを弾きながら寝てしまうことがある、と飄々と語っていて、またこの人ウソばっかり…と思っていたのだが、強ち駄法螺じゃないですよそれ。ほんとに、無限にというのは大げさにせよ、朝までやってるんじゃないかってくらい、延々とつづくセッション。あれだけやってたらウツラウツラしたっておかしくはないよ。まるで終わる気配がない。中だるみもありつつ、山本さんにちらちら各演奏者が視線を送る場面もありつつ、でも山本さんガン無視でクリオネギターを弾き続ける。波が退潮して、そこで収まっていくのか…と思っても、またもう一回曲を組み立てなおしたりして、とにかく長い時間がながれた。結局は1時間くらいだったのか、でも起承転結が曖昧だから聴き手にも演奏者にも、ある種、恍惚と「これもしかして、一生おわンないのでは?」という不安がない交ぜになるスリリング(?)な演奏となっていた(須原さんも<時間の感覚がおかしくなりました>とギューンの掲示板に書いていた。実際は45分前後だったようだ)。大いに堪能し、ベアーズで山本さんのセッションが見られたという巡り会わせに感謝した。須原さんのベースも、流れるような達人のそれで、大いにセッションの推進力となるとともに、マエストロ的役割を完遂していた。

翌昼、別宮貞則先生の英語本で語学独習しつつ新幹線で帰京。カプセルホテルのカプセルってなんであんなに安心&熟睡できるのですかね。夏の解放感に唆され、安直にフロイト的解釈に落とし込んじゃってもこの際いいですか。