インディペンデントなロックフェスティバルの現場報告5

自分のなかで一番意識していることななにかっていうと、ひとつは新しい方法、新しい秩序をどれだけ多くいち早く、発見、発明することができるかっていうこと。
後藤明夫編『Jラップ以前 〜ヒップホップ・カルチャーはこうして生まれた〜』 (1997,TOKYO-FM出版)より、近田春夫の発言(id:breaststroking:20061113)

 人間にはすべてのジャンルにおいて簡単に陥ってしまう流儀=枠があり、その枠を広げたり、穴をあけたり、踏みにじったり、知らんふりをしたりすることが、いま私が言っている「開いている」ことで、そうすることによって世界の見え方が変わる。顕微鏡が発明されてノミの姿がはっきり見えたり、何もないと思われていたところに細菌がうじゃうじゃ見えたりすることで世界の像が変わった。大ざっぱに言うと、「開いている」小説は認識のあり方においてそういう機能を果たすことができるはずなのだ。
保坂和志「2 緩さによる自我への距離」『小説、世界の奏でる音楽』(新潮社)

「飲み会がガッとスイングしてくると、いいねえ、いいねえ、ってなるじゃない。ムリに仕込んだ話をつづけてくんじゃなくて、自然にしゃべりたい話が勝手に出てきて、相手も受け取ってくれる。なに喋ってもだれかが拾って返してきて、途切れない。おかわり頼んだら、ちゃんとほしいタイミングでテーブルに来る。相手もだいたいおなじペースで、つづきを頼んでくれる。杯をとぎれずに上下する運動が時間を刻むって言ってたでしょ、健坊が。誰って、健坊だよ。あと、こっちが頼んだつまみを気に入ってくれたらうれしい。言うことない。
 そうやって飲み会がスイングしてると、文学といっしょだなあと思うの。いい小説読んでるなあ、小説のなかにいまおれ、ちゃんといるなあ、って。そんでライブも一緒。いいライブ見てるときも、これは似てるなあ、スイングしてる飲み会と一緒だなあ、っていつも思う」
某月某日居酒屋Tにての酔漢かちゃくちゃの発言


●このトピックは、ゆるやかな続きものになっている。
第一回 id:breaststroking:20071205#p1 / 補足 id:breaststroking:20071208#p2 / 第三回 id:breaststroking.20080717 / 第四回 id:breaststroking:20080914#p1

一回目は2007年のおわり時点で思いつくままにDIYなロックフェスを振り返った。今年も8月〜10月を中心に、多くのインディペンデントなロックフェスティバルが開催された、あるいはされる。今回はことしの動向を中心に概覧してみたい。

●一般の音楽好きが友達と協力しながら必死で手探り・手作りで実施し、その微視的な動きが次第に大きなムーブメントとなったという意味で、国内DIYフェスの代表格となっているのが「ボロフェスタ」(2002〜)。ことしは、拠点にしていた京大西部講堂を離れ、市内の複数のスポットを使用して開催される。

http://www.borofesta.com/

10月6日から13日まで、8日間ぶっ通しで開催。京都METRO、livehouse nano、あと最終日だけ、入場フリーの鴨川ステージがある。

主催は京都の企画集団nishiki-yaで、その中心にいるのがLimited Express(has gone!?)(http://www.limited-ex.com/)、ULTRA Jr.(http://www.ultrajr.com/)のJJだ。すさまじい熱量を放つ火の玉のようなJJさんの活動ぶりは、ブログでたどることができる。ブログのヘッダーでは自分のことを、<ほんまに音楽バカ>と自嘲ぎみに書いているが、この人はほんとうに、ある日ステージの上でパタッと死んじゃうんじゃないか、しかもその顔はとってもイイ顔をしているんじゃないか、そんな心配をさせてしまうくらい、一所懸命な人物だ。

http://limited-ex.jugem.jp/

自分がボロフェスタを訪れたのは、2005年のこと。そのときは、西部講堂と講堂前広場、講堂外の野外特設ステージの、3ステージ制だった。そこでは過去ほかにもナンバーガールROVOのライブを見てきたが、この会場の持つ魔力は、ほかに比肩するものが見当たらないくらいのもので、天井を見上げると、鉄骨だか木造だか、その組み合っている感じがなかなか他では見られないぐらいに組み合わさっている感じがして見ていて飽きないし、床はコンクリだったと思うが、後ろの後ろまでなだらかな傾斜がついていて、何のバンドをどこら辺の位置から見るか、思案するのも楽しい。「ああ、いま自分は西部講堂にいるなあ」という感興が訪れるたびに起こる。

今年は、大学や周辺住民と騒音等の問題に折り合いがつけられずに西部講堂をあきらめたのだと推察するが、会場が持っていた祝祭感覚をどうやって維持するかは難題だ。

●ことしの春先、まるで今年のボロフェスタの予行演習だったかのように、JJさんは、他のメンバーとともに、SAL CULTURESという運営主体でもって、「SAL CULTURE」というDIYフェスを実施している(3月28日〜30日)。

http://www.salculture.com/index.html

大阪城野外音楽堂、鰻谷SUNSUI、京都METROの三会場を結んだフェス。大阪と京都という、あまり一緒に何かをやることのない二地域にまたがっているのがユニークだが、そもそも大阪市から野音をつかってやってほしい、という要請があって出発したフェスだったそう。企業協賛、媒体社の後援などがあるのはそのためだろうが、それでメシを喰っている興行のプロによる仕掛けでなく、インディペンデントな手作り感覚でアマチュアが実施運営しているという点ではDIYだ。

動員は思ったようにはいかなかったようだが、ある地域の複数の会場を結んだフェスについては、ここである程度のノウハウを得ているとも言える。

ただ、個人的には、ある日程のなかで複数のライブハウスを結んだキャンペーン的なフェスティバルは、あまり好きではない。距離が離れていると、単純にフェスとしてのまとまりが薄れてしまうし、個々の会場がライブハウスばかりだと、場所の面白さが出ない。ちょっと歩いた先の、いたるところで音が鳴っている、ヘンなバンドが暴れている、というのがDIYフェスの面白さで、ぱらぱらと離れたライブハウスで個々別々に演奏がつづいているという状態は、フェスらしさが薄い。それをどうやっつけるかが、ことしのボロフェスタの一番の問題ではないだろうか(えらそうですみません)。

●nishiki-yaとゆーきゃん、JJの主催という形で(二人の名前がなぜ外出しされているかは不明)、2005年11月に事故死した羅針盤のドラマー・チャイナを追悼する、「FROG MEETING ―チャイナ追悼イベント―」が2006年4月9日が西武講堂で行われた。フェス形態ではないが、DIYなイベントであり、当時のJJさんのブログでの、東奔西走ぶりが思い出される。

http://oops-music.com/info/view_news.html?nid=23091#

●京都には、「西院ミュージックフェスティバル」というユニークな地域密着型フェスがある(2002〜)。今年は8月2日から3日の開催、全15会場に、100組以上が出演した。京都市や企業、ラジオ局も協賛、後援をしているが、実施主体は地元の人たちで、町おこしを目的としたフェスであるようだ。出演バンドは公募制になっている(http://saifes.dip.jp/join.php ふちがみとふなと、DODDODOなども出ているから、全てではないと思うが詳しくは不明)。乗車切符が必要な嵐電会場以外は、全会場が無料。

http://saifes.dip.jp/

公募制ということもあり、出演ランナップには見たことのない名前が多いが、会場のひとつひとつがとてもユニーク。電車のなかでやったり(嵐電会場。http://plaza.rakuten.co.jp/higenoreon/diary/200705210000/)、モスバーガースターバックスでやったり、幼稚園、神社、銭湯でやったり、いずれもすばらしくエッジが立っている(http://saifes.dip.jp/map.php)。街のいたるところでライブが起こっている。しかも、せっかく街中でやるのだから、平生は音楽が鳴っていないところでやる。まさに非日常のお祭りであり、場所としての魅力は申し分ない(ただ、実際見た人によると、各会場こじんまりしすぎていて、パンチが弱いとのことだが…)。

●「ライブはライブハウスで」という通常の概念に縛られない発想でライブ活動をしているのが、元マイナースレット、FUGAZIのイアン・マッケイだ。彼はThe Evensというユニットを組んでいるが、ストレートエッジという思想(http://sound.heavy.jp/grunge/band/alternative/3/fugazi.html)を打ち立てた、能弁で頭の回転が速い人らしく、そのコンセプトが面白い。

ただ、Evensのいいところはどこでも演奏できるってことだ。FUGAZIの時から俺はキッズにも聴いて欲しいと思って音楽を作ってきたけど、残念ながらそれは限られた機会でしかなかった。FUGAZIのようなアンプを通す音楽はたいていバーやクラブなんかのお酒を売るところでしか演奏できないからだ。今の音楽シーンはアルコール・ビジネスに取り込まれてる。でもEvensだとどこでもできるんだよ。教会でも図書館でも大学の教室でもね。いつでも呼んでよ。
id:etorofu:20060319
『択捉インターナショナル』(id:etorofu)2006年3月19日分より。

上記は2006年3月にピッツバーグカーネギーメロン大学で行われた講演会での発言。聴講していた学生の方のブログから引用した。

つぎのは、去年のエントリでも紹介した八広HIGHTIにマッケイがThe Evensのライブで訪れたとき、会場でした発言。国内DIYの究極の形(友達の家で友達がライブをやるパーティ!)を実践しているハイチの企画に、DIYの神様マッケイが出演した、というのが、出来すぎな感じだなと思いながらグッとくる。

  "These kind of places are very important,
  cause new ideas always came from like here,
  not from public space or other."
  
  「新しいアイデアは常に、こういう場所から起こるんだ、
   それは決して公共の場所などからではないよ。」
http://mhrs.jp/blog/archives/2005/09/post_142.html
『mhrs』(http://mhrs.jp/blog/)2005年9月18日分より。訳文も引用先から。


直接関係ないが、HIGHTIのフリーフォームな雰囲気を、見事に伝える写真によるライブレポートを紹介しよう。DE DE MOUSEのジャケットデザインほかで知られる、デザイナー、写真家の河野未彩さん(http://md-k.net/)のフォトブログから、2006年6月の、DJぷりぷり企画の写真。

http://mdk4.exblog.jp/5061219

マッケイの発言はどれも面白い。以下、拙はてなブックマークhttp://b.hatena.ne.jp/breaststroking/)に集めたものから。

2005年の、サーストン・ムーアとの対談 http://www.timebomb.co.jp/fromtop/evens2.html

大阪のタイムボムレコードのサイトに掲載された、来日前インタビュー http://www.timebomb.co.jp/fromtop/evens1.html

音楽サイト「HARD LISTENING」によるインタビュー http://www.e-vol.co.jp/hardlistening/interviews/theevens_1.html

アメリカン大学で2004年に開催された、音楽配信をめぐる討論会の記事 http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0404/15/news038.html

京都の紹介と脱線で終わってしまった。次は西日本篇の第二弾を載せます。