インディペンデントなロックフェスティバルの現場報告6


●西新宿のビザールなレコードショップLos Apson?(http://www.losapson.net/)の山辺圭司が、歌舞伎町の風林会館キャバレー跡地で行ったのが「specialoose presents バクト in 歌舞伎町@風林会館」(2006年7月15日)。ことの起こりについては、山辺氏が魅力的な文章で述懐している。

http://www.losapson.net/bakuto/report/

それから2年。「BAKUTO2008」は、9月6日から7日まで、大阪の名村造船所跡を会場として開催された。こんどはMixiほかに掲載された、氏の宣伝文を紹介する。蠱惑的なフライヤーやウェブ告知で参加者の気分を煽り立て、イベントの雰囲気を始まる前から伝えていくのは、DIYなイベントにおいて、重要な宣伝法であり、演出法である。山辺氏の宣伝文は、以下のWEB DICEのイベント告知記事でも見られるが、DIYなイベントにおける事前告知が、「始まる前から」のイベント自体の「大事な演出法」であることの好見本として転載する(こういうものはある日突然、見られなくなってしまったりもするので)。

http://www.webdice.jp/event/detail/408/

『伝説のオドロキオノノキ歓喜狂乱なパーティ! 「バクト」が、遂に! 遂に! 復活!! しかも今回は、大阪の造船所跡地でっ!!!』
2006年初夏に決行され、来場した人や噂を聞いた人には既に伝説と化している爆裂企画「バクト」が、今年2008年・大阪の名村造船所跡地で復活する!!! オドロキオノノキ歓喜狂乱!音場至福のズッポシ・タイム!忘我忘却FAR OUTなハマリ!を誘導するメンツは、鉄壁の揺ぎない前回出演者!!+強力スケット陣!! デコレーションは、ドヤ街仕込みの錬金術師=OLEO。ライティングが、ブッ飛びレーザー・フリーク=YAMACHANG。サウンドデザインが、ALTZのライブPA等も手掛けるアーティスト/DJに信頼度絶大な KABAMIX。そして肝心のパフォーマー達は、LIVEに変態トロピカリズモ!WALTZ(ALTZのエディット専科)。DJ陣は、DAZZ Y DJ NOBUとして極上の素晴らしいオリジナル・アルバム“DIARY”をリリースする千葉FUTURE TERRORのドン=NOBU。相変わらず全国をトビ回るフリースタイル越えフリースタイル(なんじゃそりゃ!だニャー)BLAST HEADのHIKARU。POWWOWが大盛況な、天国/地獄を音速で行き来するリンボーDJ!CMT。そこに地元大阪からスペシャル・ゲスト DJ!V∞REDOMS / BOREDOMSのEYEを迎え、踊れる体験実験劇場を試みます!!! その日、カンパニー公演後のBABY-Q乱入タイムもどっかにあり!! 会場のあまりの濃さに倒れそうになったら表に出てみましょう。PARTITAの直ぐ前には、屋台やライブ・ペインティングをやっており、その場の空気を心斎橋レコ屋の良心Newtone Recordsと東京東高円寺人間交差点クラブバーGRASSROOTSが、気持ちよーくサウンド・マッサージをしてくれてるはずです。で、気持ちよーく和んだらまたアート・オブ・サウンド・サウナ!なPARTITA本会場に、えいやっ!と勢いつけて飛び込んでみましょう!! 想像するだに武者震いブルルゥ〜!! 当日まで、震えてマテ貝!!!   

会場で感得されるだろう、土ぼこりやセメントの不快だけどどこか好ましい匂い、湿気と汗、アルコールの味と酩酊していく意識、サウンドシステムの放つビリビリした衝撃波で、トンじゃった方耳のもわもわした感覚……そんないろいろが、文章を読んでいるだけで、リアルに予期され、体験されるようじゃないか? 繰り返すが、たまたま目にしたフライヤーやウェブサイトで、未知のイベントの断片情報に触れたその瞬間から、DIYなフェスはその人にとってもう、始まっている。

●ところでこの名村造船所跡地という会場は、後述する「どうにかなる日々」やDJ BAKUの「kaikoo meets REVOLUTION」などが行われた横浜の「ZAIM」(http://za-im.jp/php/)と並んで、このところDIYな企画の会場として名前をよく見かける。この場所の成り立ちについては、INAXの以下のページが詳しい。

http://forum.inax.co.jp/renovation/forum/repo005-namura/report005.html

名村造船所跡地は、1988年に不動産会社へ土地が返還されるも、開発規制がかかり、土地利用の目処が立たなくなった。造船所のドックがそのまま残っており、そこがレンタルスタジオ「スタジオ パルティッタ」として、1993年から現在にいたるまで音楽家に利用されている。

http://www.namura.cc/partita.html

パルティッタは2007年に改装された。おそらく、イベントスペースとしてのこのリニューアルが、今年の好企画の乱立を生んでいる。ワッツーシゾンビ主催の「FREE TIBET,FREE PEOPLE」という企画も、11月9日にこちらで開催される。チベット支援を目的としたチャリティコンサート。

http://www.watusizombie.com/freetibetfreepeople.html

パルティッタの改装は、アートコンプレックス1928プロデューサー・小原啓渡(http://www.artcomplex.net/)が始めた、「クリエイティブセンター大阪」あるいは「NAMURA ART MEETING '04-'34」という大きな流れのなかに位置づけられる。先ほどのINAXのページから引用する。

2004年、造船所当時のドック、建物が残る敷地や、木津川対岸の中山製鋼所の風景に魅せられたアートコンプレックス1928プロデューサー・小原啓渡が「アートの実験場に」と千島土地株式会社専務(現代表取締役)・芝川能一氏に提案。30年間のプロジェクトを立ち上げ、この場所を手がかりに芸術を軸にした30年間の実験をはじめることになった。

こうして名村造船所跡地は、「クリエイティブセンター大阪」として生まれ変わり、若い芸術家、音楽家パフォーマーの発表や表現の現場となった(http://www.namura.cc/about.html)。跡地の建物を活用したCCOは、パルティッタと、BLACK CHANBER(http://www.namura.cc/blackchamber.html ←外観は、RAW LIFE2005の君津アクアマリンスタジオぐらいヤバげな廃墟系)、そしてAIR大阪からなる。エアーはアーティストインレジデンスの略で、利用者であれば2100円で宿泊できる心強い施設だ。

http://www.namura.cc/air.html

このように、インディペンデントなフェスは、出演バンド以上に、場(会場)の魅力の有り無しが大変重要になってくる。良い会場であるかどうかのポイントはおそらく、使い勝手がよいのと(会場自体はもちろん、周りの環境とか、交通の便とか)、場所を持ってる人たちの協力体制が柔軟なのと(たとえばAIR大阪のように)、演奏者にも見るほうにも、その場所に魅力を感じられるかというところだと思う。「kaikoo」を主催したPOPGROUPの代表の方も、横浜のzaimの協力姿勢と、その反対に東京への不満を、『REMIX』のインタビューで語っていた(id:breaststroking:20080717#p2)。

●「ごちゃ祭り」はことしも、関西アンダーグラウンドの良質な濃さ、くどさを残して、10月11日、12日、大阪の河内長野市・光滝寺キャンプ場<第2キャンプ場>にて開催される。
http://gocha.jp/

●HOP KEN(ホープ県とよむ)は、今年は8月15日〜17日、梅田Shangri-laとMAMBO CAFEで行われた。

公式サイト http://hopken.web.fc2.com/
ブログ http://hopken.jugem.jp/
旧ブログ id:HOP_KEN

今年は面子がものすごかった。関西UGの精髄が全て叩き込まれた面子。私情抑えきれず全転載する。

アウトドアホームレス
  足立智美
  あふりらんぽ
  梅田哲也
  Won Jiksoo
  ウリチパン郡
  OORUTAICHI
  オーロラ(川端稔、稲田誠)   オシリペンペンズ
  Optrum
  かきつばた
  gulpEpsh
  倉地久美夫
  Suspiria
  外山明
  チッツ   テニスコーツ
  ナスノミツル
  二階堂和美
  neco眠る
  のうしんとう
  半野田拓
  FUTA9082
  ふちがみとふなと   velocityut
  BOGULTA
  森山ふとし
  山本精一
  山本達久
  ユダヤジャズ
  and more…

  さらに!   BUN666   POPO   町田良夫   中林キララ


企画はスギモトさんという方。CRJ-WESTに所属する、学生の方らしいのだがそれ以外のことは知らん。東京のDJぷりぷりといいこの方といい、すさまじいエネルギーを持った学生さんがいるものだ。上のブログを読むと、面白いバンドへの興味が、素直にまっすぐに表出していて、しかし同時に、クールにイベント全体を眺める企画者的な視点も持っていて、こういう方がつくるイベントはそれは面白いだろうと思う。

●つぎつぎとインディペンデントなライブに出掛けては、奇跡的なライブ写真を撮りまくるHellaaaaaaaa さんによる、ホープ県の写真レポートはぜひご覧いただきたい。
16日 http://eoeoeoe.exblog.jp/9767207/
17日 http://eoeoeoe.exblog.jp/9853488/

この方はバンドもやっているのか? ブログに、10月12日に名古屋のカラオケハウス「カラオケトップワン」をつかったイベント「“Death Sentence: PANDA!”JAPAN TOUR/NAGOYA」の告知が出ていた。Limited Express(has gone!?)も出演する。なんだかすごい。

http://eophotooe.exblog.jp/9824168/

それで、一向に飽きない気持ちで過去の写真レポートを見ていたら、初めて知るDIYなイベントを見つけた。京都大熊野寮で2007年10月に行われた「チープロックフェスティバルVOL.5」。

http://eoeoeoe.exblog.jp/7361856/

●東大駒場(〜2001年8月)も法政大学学生会館大ホール(〜2004年 http://blog.goo.ne.jp/red-rat-line/e/a79deda08ab2ab1bd1d181addc8615df早稲田大学学生会館(〜2001年7月 7月31日の反対闘争の映像 http://jp.youtube.com/watch?v=YHPFY5s4UQoも取り壊され、20世紀の記憶ともに視界の後ろに消え去った今、こういったうっすら左翼っぽくて泥くさいイベントは、東京では見られないだろう。

最近の大学で行われる、学園祭と無関係なライブイベントでは、早稲田大学の完成してまだそんなに経っていない現在の学生会館(の、楽器とか踊りとかの練習をやるための、屋内スペース)で行われた、there is a light that never goes outの解散ライブ(ザ・スミスじゃないよ、日本のハードコアバンドの名前です)「消灯」(2002)が印象深い(レポートがある http://www.sol.dti.ne.jp/~kinta-99/shoutou.html)。

このバンドは、アメリカのハードコアバンドカルチャーを自分たちなりに咀嚼嚥下し、既存のインディバンドの運営方法論をリセットした上で、全てをひとつひとつ考えながら、手作りで進めていった。まえにも紹介したが、彼らが発刊していた個人誌でありハードコアファンジンでもある『シンキョウ』も、シーンを何とかして盛り上げようという気持ちと、金も時間も名声なくて、押し潰されそうな気持ちになりながらも、何クソと外にぶつかっている感じが、一種異様な熱を放っていた。彼らのムーブメントが、もう3年遅れて起こっていたら、何かちがった化学反応がシーンに起きていたのではと思わないでもないけれど、メンバーは現在、より達観、悠揚とした態度で、hununhum(ハンアンハン  http://www.myspace.com/hununhum)、Zなどで活躍している。メンバーの根本歩は、現在UNPRODUCTSという木製家具のメーカーを興し、日々のたつきとしている。本物のDIYだ。

http://www.unproducts.com/ アンプロダクツのウェブ
http://blog.unproducts.com/?eid=776202 アンプロダクツのブログの左記のエントリでは、根本兄弟と魚津さんの三人の音楽活動の歴史を追うことができる。これは一つの小さな歴史である。

●『シンキョウ』はゼアイズの解散とともに終刊したが、終わるものもあれば、本格的に走り始めたミニコミもある。最新の第4号で、抜群の行動力と独特なしなやかさでZAZEN BOYSアメリカレコーディング密着ルポを掲載した(もうひとつ言えば、巻頭でなく、雑誌の第二特集として、真ん中あたりに配置したのがカッコいい)『HB』編集発行人ハシモトさん(id:hbd)は、ザゼン、いや、向井秀徳自身にとっても、初めてとなる本格的なアメリカツアーの全工程に並走した(9月27日〜10月7日)。ナンバーガールの解散以後、向井はメジャーレーベルと契約せず、インディペンデントな音源制作と流通を実践している。インディペンデントあるいはDIYの旗手・向井と、若いインディマガジンの作り手の組み合わせには、心躍るものがある。旅先の街々で、ハシモトさんが撮った美しい写真をぜひご覧いただきたい。

id:hbd:20081003 (この前後のエントリがツアー中の写真)

訪れる街ごとに見事に異なった顔があって、そこを切り取っていく手つきが、実に自然で瑞々しい。

●いつの間にか東京の話になっていたので戻す。KING BROTHERSは8月23日、神戸須磨ビーチ「海の家レインボー」で、KING BROTHERS presents 俺の鉄馬グランプリ番外編…、『神戸須磨ビーチは大パニック!! 地獄のロックンロールデスマッチ in 海の家レインボー』を開催した。

http://king823sumabeach.blog64.fc2.com/

●以前紹介したnontroppoのBOGEYは、福岡のアンダーグラウンド音楽における中心人物で、ヨコチンレーベルからいろいろな変態バンドの音源をリリースしたり、ハイコレ(1997〜)、「ラウンジサウンズ」といった企画を矢継ぎ早に行って、シーンを大いに盛り上げている。円盤、福岡出身の上京組とも繋がりが深く、ボギーの紹介で、東京での公演の機会を得た若い地元バンドも多い。

そこまでがおさらいで、ボギーが手がけるロックフェスが、「ヨコチンロックフェスティバル」。今年は福岡のVooDooLoungeで、9月21日に行われた。

http://www.geocities.co.jp/MusicStar-Keyboard/8256/highcolle.html
http://www.webdice.jp/dice/detail/923/ (ボギーインタビュー@WEB DICE。併せてチンロックの写真も載っている)
http://kibami.jugem.jp/?eid=121チンロック’07の、ボギーによるレポート)

今年のチンロックは、まずブルックリンのGANG GANG DANCE来日ツアーの福岡公演になってしまっているのが面白い。福岡のアンダーグラウンドの祭典にブルックリンの鉄砲玉が衝突、という図が面白い。福岡のアンダーグラウンドなバンドは、東京ではあまり頻繁には見られないが、たまに秋葉原のグッドマンなどで見ると、大阪とはまたちがった濃さ、アホさ、アイデアを持っていて夢中になる。何より日本のいちばん西のほうに、独立した一つのシーンが小規模ながら、盛り上がっているのが喜ばしい。

余談だがnontroppoはドラムのヤノトモアキが、ドラム修行すべく上京したため、つぎのドラマーが見つかるまで、9月で一旦活動休止。9月14日と26日の、東京、および福岡でのライブは、演奏曲20を超え、休憩も挟みつつ3時間前後にならんとす、命を削るような狂乱のワンマンだったそうで見逃したことが本当に悔しい。東京のレポートがバンドの輝きを伝えて余すところが無い。

http://blog.goo.ne.jp/goodnight19/e/d360af5f5b0c4d1415e7b8e252fd79ad

現在、nontroppoはツインドラムを迎え、新体制へ向けて練習中とのこと。

ちょっと収集がつかなくなってきた。西日本はここまで。次回は東日本のフェスを見ていく。