インディペンデントなロックフェスティバルの現場報告7 2010年1月にライブハウスの転換点を小岩でみつける


●小岩でリミテッドエキスプレスのワンマンを見た


横浜バンクアートで「東京リアル脱出ゲーム 廃倉庫からの脱出」を成功させ、『ミュージックマガジン』に音楽産業の変化に関するコラムを掲載、吉祥寺百年(http://100hyakunen.com/)でトークイベントに参加。1月からJJこと飯田仁一郎さんの活動は精力的だが、活動の中心となるバンド演奏がまだなかった。そのLimited Express(has gone?)が、今年一発目のライブを5年ぶりのワンマン形式でやるというので、小岩のBUSHBASHへ。

ライブ、展示、講演会、上映会、なんでもいいけど、山手線が描くサークルから、東の方に踏み出して遊びに行くことは、あまりない。お台場(渚音楽祭日本科学未来館)、新木場(夢の島スタジオコースト)は別にして、まひがしでいえば、深川エリアは東京都現代美術館、清澄白川ギャラリー地区があるがたまに行く程度。八広ハイチは刺激的な場所だけれど、民家だから頻々と企画をやっている訳ではないし、柏Drunkerd's Stadiumは、「BGM09!」(http://www.bgmjapan.net/)など、去年から気になる企画が多いが、ちょっと遠い。千葉LOOK(LIVE SPOT LOOK)は面白いライブをやるものの、いわゆるインディーズで、アンダーグラウンドな匂いのするバンドは出ない。チケットも地元の人でないとなかなかうまく買えない。

足を運ぶことの少ない23区東部に、刺激的なライブハウスがあることは、フライヤーやミュージシャンのブログで知っていた。小岩eMSEVENという。eMSEVENは中央でもなく、ローカルでもない、シーンから不思議な距離感を持った小岩にありながら、ハードコアパンクのバンドを中心にしつつも、ハードコア精神を持ったアンダーグラウンドバンドを集めた企画を組んで、静かな注目をあつめていた。一度も足を運べなかったことを残念に思いつつ、後者のバンド群でいくつか書けば、UGMAN、GODS GUTS、リミテッド、nemoなどのless than TV(http://www.lessthan.tv/)界隈、drumno、yudayajazz、やけのはら、elektro humangel、2UP、SHIFT、TIALA、shobu、高品格など、新大久保アースダムと渋谷のネストを2:1でブレンドしてキツいスパイスをかけたような面々が出演した。2008年10月25日と26日には、自主企画200回を記念して、ビル全体をつかい、およそ120組のバンドが出演するフェス「SALAD DAYS vol.200 anniversary show」(http://mwmwmwmw.exblog.jp/10733685/)を実施した。ハードコアバンドの来日も多くあったようだ(http://people.zozo.jp/milon/diary/473767)。また、ベジタリアンのスタッフが「ソヴィエト食堂」という、動物性の材料を一切つかわないベジタリアンフードをサーブする企画も行っていた。スタッフのミュージシャンからの信頼も篤く、eMSEVENは小さなしかし確実な運動をつづけていた。

しかし2009年6月30日、eMSEVENは親会社のビル建て直し計画で閉店。ビル改築後にそれまでとおなじ方針でライブハウス運営することを制限され、悩んだ末の閉店だった。

http://blog.livedoor.jp/emseven/archives/51193522.html

その後小岩のシーンはどうなった? eMSEVENの活動史は、波の上の航跡みたいに黙って消えていくほど弱くはなかった。閉店からすぐの8月21日、小岩eMSEVENで店長を務めていた柿沢さんとスタッフの方が、おなじ小岩でBUSHBASHをスタートさせる。

http://bushbash.org/

小岩駅から5分、商店街を抜ける。青果店果物屋、純喫茶、焼肉屋、中華料理屋、モツ焼き屋、風俗店。ゴチャゴチャと猥雑なエネルギーを放つ町並みにワクワクしながら歩いて商店街を外れて、喧騒がやや静かになった一角にBUSHBASH。ちなみにファッションヘルスの店の隣だ。入るとまずカフェ、バースペースで、フローリングの上に、木目のついたイスとテーブルが並べられていて目に優しい光景。ライブスペースよりも、こっちのほうが広い。手ごろな価格のナチュラルフードも売りにしていて、ランチもあるし、ライブ後にカレーを食っている人もいた。その上、レコード屋としての側面ももつが、道路よりの窓辺のテーブルにばっと並べてあるだけの、つつましさのあるディスプレイで、ゴミゴミした感じはしない。しかしきちんと手書きポップが付けられて、選んだものだけを丁寧に売っている印象。フライヤーとCDの間には、11月22日の石狩亭の火事で営業停止になっている(http://www.rippingyard.com/seed/1373/)、高円寺20000VとGEARの営業再開を訴える署名チラシ、「救え!伊藤耕」という署名チラシも置いてあった。

お店の中の風景 http://bushbash.org/about.html

ライブは、40人強か。YUKARIのギター弾き語り3曲で始まる。キャンディキャンディのOP曲を唄ってから、キャンディが12歳になってラガン家にやって来るシーンを一人芝居で演じるなど。Twitterでの事前予告どおり、バンド編成での前半ではめずらしくカバーも演奏された。ECD「ROCK IN MY POCKET」、BEASTIE BOYSの「SABOTAGE」、ニューエストモデルやキセルなど。休憩後の後半は2009年かちゃくちゃのアンセムナイチンゲール」、バンドの代表曲「Sacrificial Jesus Child」などで、着ていたコートもカフェにぶん投げた。バンドが始まったら、緑色のヘッドフォンとおしゃぶりがおしゃれな共鳴くんが泣き出してYUKARIがあやして中断したこと、あとまったく意味も無く二本のギターが破壊されたこと(あれがこんど出る壊せるギターなのか? 「サボタージュ」をベースからギターに持ちかえて演奏していたYUKARIは、曲の終盤フロアにおりて、ギターを何度もふりかぶっては、コンクリートの床に打ち付けた!なぜ!カバー曲だし!まだ前半なのに!意味わからん!しかしそのシュール具合、およびラストの決めのところでジャストなタイミングでネックがへしおれたのがヨカッタ)も特記しておこう。

一つ苦情を言えば、前半で、デジカム、カメラの人が3人くらい前にいて、ちょっと浮き上がっていた。

このところ、どんな小さなライブに行っても、いや、小さければ小さいほど、最前列で直立不動のデジカムマンや、デジカメマンに遭遇するようになってきた。情報革命時代になって、機材も高品質なのが安くなり、軽くなった。DVDにするのも簡単だし、動画だってすぐに配信できるようになった。DIY活動のなかにあるバンドにとっては、販売、宣伝の両方でこれは福音である。生命線である。しかし、まあ非難をおそれずに言おう。40から50人のワンマンライブで、デジカム二人、カメラマン一人は多すぎるんじゃないの。しかも身内のような、プレスのような、あるいはただのファンのような、直立したり踊ったり構えたり降ろしたり(iPhoneに持ち替えたり)、つねに微妙な対象との向き合い方をする。肩書きとアティチュードが不鮮明な、あもるふぁすなまるちちゅーどと化してしまっているのである。もしプライベート半分で回してるんだったら、そのグッドポジション(は良いとして直立不動)、容認しないぜ? 出処を明確にしてもらいたいものだ。既得権(悪い意味じゃなく)をもったスタッフや、プレスといった徹底した立場ならいざ知らず、そうでないなら好んで前に行くことなかれ。

情報革命期のライブハウスは、かように不安と疑問がうずまく場所なんだぜ。



●あたらしいライブハウスのフォーム


実は書きたいことは他にあった。

インストバンドサンガツhttp://sangatsu.com/)に在籍し自身もマスコミ業界に本業をもつ、フルタイムミュージシャンではない小泉篤宏さんは、この前、ツイッターでつぎのようにつぶやいた。

昨日はレコ発ライブに使えそうな会場をいくつか下見。が、成果なし。みんな結構カタい。それにしても、なんで音が出せて自由にレイアウトできるスペースがこんなにも少ないんだろう? 1:33 PM Jan 8th from web


1ライブハウス並みに音が出せて、 2客席とフラットで、 3自由にレイアウトできる。バンド・演劇・ダンスが混ざるイベントをやるにはこの3つをクリアしてないとキツいんですが、現状、思い当たるのはSuper Deluxeぐらいしかない。 1:35 PM Jan 8th from web


スーデラはスーデラで素晴らしいとして、あと2つぐらいこういったスペースがあればシーン全体もドラスティックに変化していくと思うんだけどなぁ。もっとジャンル間の風通しが良くなると思うし、音楽ファン以外のお客さんが流れてくればハコ側にもメリットはあるはず。 1:37 PM Jan 8th from web


音楽に話を限定してみても、録音物からライブに比重が移ってきている現状、いまだに現場が対面式LR2chの名残を残しているのは何だかなあと思う。空間を自由に使えれば当然音楽自体の構造も変わるし、出来ることも増える。 1:46 PM Jan 8th from web

※特殊記号だけ筆者が直した。


元からライブハウスに限定された演奏活動を行わず、2008年にはホナガヨウコの音体パフォーマンスに出演した(id:breaststroking:20080622)サンガツらしい視点だが、自分なりの解釈に我田引水させてもらうと、ミュージシャン視点に立ったライブハウス(会場)が、都内に少ない、という風に読んでしまう。

ミュージシャンがライブをやりながら年寄りになるまで生き延びていく環境が日本には無い! 欧米ではこうです、というのが3年位前の「ネオアンダーグラウンド構想」という大上段な名前の、若いミュージシャンが集まってはじめた運動が提唱したメッセージだった。この悩みと叫びは普遍的なもので、現在も、音楽の現場を盛り上げ、改善していくために試行錯誤しているミュージシャンはたくさんいる。

そんななかで、BUSHBASHの存在は面白いと思った。さっき書いてなかったが、今回のリミエキのワンマン企画は、自主企画ではなく、BUSHBASHの「ONE MONTH」というシリーズ企画のなかの一つになっている。ワンマンライブばかりやる月間だからワンマンス。その内容を紹介しよう。

1/6(wed)
久土'N'茶谷
open19:30 start20:30 adv1200yen day1500yen(+1drink)

1/7(thu)
ANGEL O.D
open19:30 start20:30 adv1200yen day1500yen(+1drink)

1/8(fri)
KOCHITOLA HAGURETIC EMCEE'S
open19:30 start20:30 adv1200yen day1500yen(+1drink)

1/13(wed)
漁港(トークショー&ライブ)
「地球の海から魚が消える日!?vol.9」
open19:30 start20:30 adv1200yen day1500yen(+1drink)

1/14(thu)
ELEKTRO HUMANGEL
open19:30 start20:30 adv1200yen day1500yen(+1drink)

1/15(fri)
BREAKfAST
LOUNGE DJ:373/DISCHARGE
open/start16:00 adv1200yen day1500yen(+1drink)

1/17(sun)
T.V not january
open13:00 start13:30 adv1200yen day1500yen(+1drink)
・昼からのスタートです!

1/19(tue)
COSMIC NEUROSE
LOUNGE DJ:SO(hardcore survives)
open19:30 start20:30 adv1200yen day1500yen(+1drink)

1/20(wed)
drumno
open19:30 start20:30 adv1200yen day1500yen(+1drink)

1/21(thu)
Limited Express (Has Gone?)
open19:30 start20:30 adv1200yen day1500yen(+1drink)

1/22(fri)
赤い疑惑
LOUNGE DJ:アクセル長尾/AMEMIYA KSK(caribbean dandy)
open19:30 start20:30 adv1200yen day1500yen(+1drink)

1/29(fri)
WE ARE!
open19:30 start20:30 adv1200yen day1500yen(+1drink)


ブログによると店長の柿沼さんと、レスザンの谷口さんの発案らしい。

さっきも書いたけれど、二万ボルトが火事で閉店したのは11月末。9月にやった自主企画「分別ざかりの無分別」が終わった後の飲み会は(打ち上げ、ではない)、火元の石狩亭でやったんだよな。高円寺のSunrain Recordsも、12月13日に店舗を閉め、通販とイベント会場限定のレコードショップになった。それと交代するように、ずっと東のほうの小岩で、ありそうでなかった企画が生まれた。

ライブハウスでワンマンを一ヶ月やりつづけるなんて、そんなに面白いか? 粗削りで工夫がないだけではないのか? という疑問も出てきそうだが、これは意欲的な企画だと思う。

元来ワンマンライブというのは、熱心なファンにはうれしいけれども、ライブハウスにとっては相当な集客リスクをともなう、危ない企画だ。だからアンダーグラウンドなバンドで、ワンマンをやる人は滅多にいない(54-71の「ワンマンリサイタル」とか、懐かしい)。だが、滅多にないからこそ、ファンは見たいものだから確実に一定数やってくる。だから集客が少人数でも、赤字をこかない経営形態であれば、他ではできない希少性が高い企画となる。武器にならないワンマンを武器にしてしまおうということである。大半のライブが、よる8時半開演、全日当日券1500円という、アメリカナイズされた設定も、ポイントが高い。

ではなぜ他ではできないのにBUSHBASHはやるのか、いや、できるのか。推測がまじるが、つぎのようなところではないか。

・賃料の安い地域であること。都心ライブハウスではなかなか厳しくても、小岩ならば低賃料で経営リスクが低い。一方で、客からしたらアクセスしづらいというデメリットもあるけれど、企画に面白さ(希少性)があれば、少しくらい遠くても行くひとは、仕事を切り上げて、シフトを入れないで、夕方の講義をフケてでも行くものだ。
・家族的な緊密なつながりを持った少人数スタッフが運営していること。前のお店から自力で開店した熱意と結束力、高いノウハウがある。これは4つ目と重なるか。
・ライブの収益だけに依存しない経営をしていること。正直レコードショップでは食えないと思うが、自然食を打ち出したランチ営業とかは、ライブの不採算をカバーしているような気がする。
・スタッフのコネクション力。前のお店の数々の企画で、信頼できる実力と発信力をもったバンドとつながっているのは大きい。

BUSHBASHは小岩という場所にあって、ワンマンスという企画でもってあざやかな発想の転換を提示した。景気悪くってもやられっぱなしじゃねえぞ、DIYなめんなよという、ささやかだがしなやかな、反撃ののろしとしておれは受け取った(穿ちすぎ?)。2010年以後のライブハウスの新しいあり方を予見するための、ヒントを見た気がした。