ぼく(たち)の好きな冒頭4.5

 目が覚めて、オオタタツユキが最初に見たものは、3チャンネルの粘土アニメだった。さっき見たときは、不思議な体操をしている人々が映っていたはずだと思い、自分の記憶が飛んでいることに彼は気づいた。画面の中では、カンガルーに似た奇妙な生き物が、飛行機やらサッカーボールやらに変化してゆくカラフルな光景が展開している。つまり、もうしばらくすれば、「ひとりでできるもん!」が始まる時間帯というわけだ。ということは、案の定、ほとんど眠れなかったに等しいわけで、オオタの気分はそのとき、ほぼ最悪の状態だった。


阿部和重「鏖」(みなごろし)『無情の世界』(講談社