「生きていたスーフリナイト」告知第二弾。追加ゲスト、タイムテーブル発表


とってもいい目をしているが、おつむが足りない若者がいた。完璧な人間などいない。若者の名はフレディ・フォーリー。タンカースリーという名の上司と口論していた。
ラファティ『第四の館』柳下毅一郎訳、国書刊行会

夢見がちな新聞記者フレディ・フォーリーは、自分がつかんだ特ダネのことで上司と揉めている。政府のある要職者と、500年前のマムルーク朝の政治家が、同一人物ではないか?というのが、その内容。その根拠は、顔と名前が似ているから。のっけから電波をゆんゆんと飛ばすようなこの推理、しかしどうやらイイ線を行っていた。調査をつづけていくフォーリーと、それを邪魔せんとするエックスメンみたいな電波的超能力者集団・収穫者(ハーヴェスター)たちとの戦いが、始まる!

…『第四の館』、こういう話でよかったでしょうか? 多分きっとだいぶちがう。何しろまだ初めの方を読んでるんだおれは。それは措いて、冒頭に引用したのは、本編二ページ目の文章だが、こういうそらとぼけたようで愛らしい、しかしどこか剣呑な印象を与える文章が、小説の始まりの方で、野ウサギの走りのようにとつぜん飛び出してくると、これはもう間違いない、という気になって、黙ってギュッと付箋を貼る。おれはね!

ぼくはセバスチャンなのだ、あるいは、セバスチャンがぼくなのだ。あるいは、おそらくぼくたち二人は、ぼくたちも知らない何者かなのであろう。
ナボコフ『セバスチャン・ナイトの真実の生涯』富士川義之訳、講談社文芸文庫

セバスチャン・ナイトの意味ありげな書き終わり。未だにその真意も含意も読み解けぬままに、気がつけば年だけとって、ふと気づく。<とってもいい目をしているが、おつむが足りない>フレディ・フォーリーとは、わたしどもスーフリのことではないか? そっと周りを見回して、自分と知人を引き比べてみる。何がとは断定できないが、何かが決定的にズレている。<とってもいい目をしているが、おつむが足りない>元若者がグロウインアップして、ずいぶん他とちがってしまっていた。歩くスピードも、重きを置く価値も、落ち着きのなさも、他人との距離の取り方も、あるべき人生双六の現在位置情報も…! しかしそのように辿られてきた生き方の生き直しが、軌道の修正が、この段階で、できるというのだろうか? しかも、手に負えないことに、わたしどもスーフリは、そんな自分自身のことが、実はけっこう、嫌いでは、ない。というかむしろ、病的に、好きだ!

卒塔婆のように積ん読本がぽこぽこと立っている、ワンルームの散らかった豚小屋を主な舞台とする、神経戦的人間悲喜劇を生きてて生きて生きてきたあまねくスーフリたちと、そうでもない人たちに、「生きていたスーフリナイト」をお届けしよう。

今回は二人のゲストDJをお迎えします。

映像論、テレビ論、映画論など広い分野で健筆を揮う、社会学者の長谷正人先生。近ごろはTwitter小林信彦のコラム的な面白さを湛えていて、わたしどもの生活にちょっぴり潤いを与えている。憂いを帯びた困り顔が、ちょっぴりウディ・アレンに似ていると、誰でも聞きたがっているくせにちょっと聞きにくいことを、当日先生に伝えてみようか。

そしてナボコフ研究と翻訳、海外文学、詰め将棋、チェスプロブレム、さらに古きよき歌謡曲(というか古いポップス)など多分野において超然とした存在感を放つ、京都大学若島正先生。かちゃくちゃにとって、そして少なくないその道のスーフリたちにとって、この十何年か、若島先生はキョーレツな文化イコンである。そして、ナンパものやインチキものに口腔の奥で舌打ちするたぐいの読書人種にとって、灯台守みたいな存在でもある。

お二人とも、生きていたスーフリナイトで、人生初DJをご披露いただきます。

そしてもう一人、追加ゲストを発表しましょう。奇書『第四の館』を訳出した、特殊翻訳家柳下毅一郎さんを、第三のゲストとしてお迎えします。

柳下さんに初めて出ていただいたのは四年前のスーフリナイトで、人生初DJを披露していただいた。Joy Divisionの、不穏だがどこかかわいらしい(アレ、どっかで聞いたような形容!)スティーヴ・モリスのドラムループが印象的な、Atrocity Exhibitionで始まったそのDJは、同年四月に亡くなったばかりの作家バラードの追悼選曲だった。曲目は、柳下さんのブログで見られます。サバサバとした、しかし気持ちのこもったDJでした。

http://garth.cocolog-nifty.com/blog/2009/08/vol4-75c1-1.html

これは実は長谷先生と若島先生にも共通していえることなのだが、柳下さんはいつも物する文章(キス我慢ムービーのメルマガhttp://www.targma.jp/yanashita/?p=1617 、イカしてる)やたたずまいは怜悧でクールであるが、同時にとても優しい。

話が変わるようだけど、世にネブミストたちが横行している。ネブミストとはだれか? たえず物や人に対して面白いか扱うに接するに益するかの価値判断をして、そこで分析した印象をもとに対象と近接する人種のことだ。先月、特に名はヒスがT氏が飲み屋でその話を切り出し、数分のうちにわたしどもは、ワイノワイノとたくさんのネブミスト気質の文化人の名前を挙げたのだった。

気がつけば、世はネブミストの跋扈する冷たい時代になっている。そしてそのことは、ミニブログを中心にした情報発信社会の到来とおそらく無縁ではない、が、ここではそこには踏み込まない。

で、そのネブミストの対極にいるのがハンダニスト、ということでよかったか(ちがうな、でも、適語が見当たらない)。ハンダニストはその場その場で相手を値踏みしない。人と対等に付き合って、結果的に相手を伸ばすのがハンダニスト。高速演算コンピュータのようにそのときどきで相手の印象を計測して、そこで出てきた価値判断の元に付き合うのがネブミスト。

わたしどもスーフリは、無数の偉大なハンダニストたちの創作と生き方に、たえず影響を受けてきた(もちろん、ネブミストたちの創作からも、強い刺激を受けているんだけど)。生きていたスーフリナイトは、跋扈するネブミストたちへの、ハンダニストたちからのカウンターパンチでもある、のかな??

おれなんか余計なこと言いました? とにかく、今回はハンダニスト界から、暗闇のなかの光のような文系グレートスリーをお招きし、にぎやかな夕べをみなさんにお楽しみいただきます!

■生きていたスーフリナイト タイムテーブル

1700 -1730 DJ Big Love
1730 -1800 ryuto taon
1810 -1835 ryuto taonと抱擁家族(LIVE)
1835 - 1905 長谷正人 a.k.a. DJ 敗者たちの想像力
1905 - 1935 柳下毅一郎
1935 - 2005 横文字三郎
2005 - 2045 若島正 a.k.a. DJ 乱視読者
2045 - 2115 かちゃくちゃ
2115 - 2130 地球宇宙、そして我ら

◎生きていたスーフリナイト
●日程/ 2013年7月20日(土)
●時間/ 17時〜21時30分
●場所/ BAR SAZANAMI(渋谷区円山町5-3 萩原ビルB1階/03-6657-3870)
●お代/ DOOR 1500円
○DJ / DJ BIG LOVE(スーフリナイト)、横文字三郎(スーフリナイト)、地球宇宙、そして我ら(スーフリナイト)、かちゃくちゃ(スーフリナイト/大衆決断)、ryuto taon
○LIVE/ ryuto taonと抱擁家族
○Special Guest DJ/ 若島正 a.k.a. DJ乱視読者、長谷正人 a.k.a. DJ 敗者たちの想像力、柳下毅一郎

※最後に、会場のことでご注意があります。バーサザナミは25人から30人でいっぱいになる会場です。場合によっては、当日、非常に窮屈になるかもしれませんし、もしかしたら入れない、ということもあるかもしれません。その際は、どうかご了承ください(バーなので、予約はとっておりません)。

しかし、入退場は自由です。同じ階には、ファンキーコタで有名な、アシッドパンダカフェもありますし、周辺にはたくさん飲食店があります。出たり入ったりしてみながら、楽しんでください。もちろんぜんぜん誰も来なかったら、杞憂ですが。

■次回の直前告知では、あるゲストDJのご自身の提案による、大変面白い趣向をちょっとお知らせしたいと思います。