宮城にて、フォトジェニックな吾妻光良から目が離せない


□連休はドカドカ金を使ったのでもう緊縮で行こうと思った矢先にタワレコbjork『volta』とfenneszsakamoto『サンドル』、本屋でクリストファー・プリースト『双生児』(早川書房)、コンビニで相澤仁美松本さゆき福永ちなが「はさまれ隊ハート」というユニット(なのか?)でグラビアを飾っている『FRIDAYダイナマイト』をドカっと買ってしまった。なのでうちでしおらしく思いだし思いだし日記を書こう。

□連休中は三泊四日でARABAKI ROCK FEST.07に行くという名目で仙台に出かけた(フェスは4月28日および29日)。なぜアラバキという、やや地味で中くらいの規模のフェスにわざわざ行くかというと、12人編成でみな五十歳前後のビッグバンド・吾妻光良 & The Swinging Boppers(http://www.jvcmusic.co.jp/boppers/)を見るためである。

昨年夏ごろ、新譜『SEVEN & Bi-decade』が出たときの『ミュージックマガジン』に取材記事が出ていて吾妻光良人間性に惹かれ、11月にエロ編(id:erohen)と共同開催のイベント「スーフリナイト」で、人生初DJのとんからさんが「150〜300」をかけて、おれはその音楽にときめいた。まだ半年だからファンとしてはぺえぺえだが、去年から、バッパーズを聴かない日はないし、暇があれば頭に浮かぶのは吾妻光良……いや「道徳HOP」での呼びかけに応えて、呼び捨てはやめよう、「吾妻さん」のことばかり。『ジャニヲタ 女のケモノ道』の吾妻さん版とばかりに(こっちはヒゲではげのおっさんだからあっちより分が悪いぞ)、大いに傾倒した。だから5月にクアトロでやるという発表を見ても、それよりも先にまず仙台で見たい、という気持ちは全くユルがないのだった。

バッパーズは初日の夕方17時に、湖に面した第四のステージ「TSUGARU」に出演した。四つのステージの中で、最もこぢんまりしたステージで(mixiには三番目とあったがそう言われるとそうかと思う)、振り返るとみずうみがある。このフェスティバル自体は大雑把な印象で言うと、石狩のRISINGSUN ROCK FESTIVALを規模縮小して、もう少し大味にした感じだから、客層も若い。なのにこの小さなステージに結集したバッパーズファンは一体なんなんだ、今までどこにいたんだ、ってのは大袈裟だけど、他のステージよりかは平均年齢が高いのは一見して疑いがない。ちらちら三十代中盤以上、という外見のファンの方が見られた。やはりバッパーズのことだけを頭に浮かべてここまでやってきた人たちなのだろうね。みんなやきもきして待っている。

音出しに登場した11人の楽団は皆、黒の蝶ネクタイに白シャツ。おお、みなさん実に個性豊かなイイ顔をしている。特にドラムの岡地さん(元ボ・ガンボスだ)、そしてホーンのとてもよく言うとオダギリジョーに似ている人なんか、いつまでも眺めていたい顔だ。しかし正装なのかと思ったら、ネクタイが曲がっている人も多いし、下はみな、ジーパン。そういうものなのかと思ううちに「THINGS AIN'T WHAT THEY USED TO BE」が始まり、それからほどなくして下手から吾妻さんがギターを持ってにゅっと出てくるのだが、いきなりカッコ良い。長髪に頭頂部は禿頭、黒と灰色の中間のような味わい深いスーツを着て、ぎゃんぎゃんベキベキと例のヘンな(すみません)音の出るギターをかき鳴らす。思わず唸り上げてしまったぜ。一緒に見たとんからさん曰く<吾妻さんはフォトジェニック>。いつまでも見ていたい(何度も言ってる)。表情、立ち居振る舞い、全てがすばらしい。MCも最高だ。パンツがずれて仕方ないとか、ロックと言えばドラッグだがメンバーは痛風や高血圧がいるからドラッグまみれだとか、喋っている内容の他愛なさも良いのだが、なにより渋い声と柔らかい語り口が絶品である。仕事と音楽を満足にやりながら五十を越えた男との生き方が、味になっている。

1時間のステージで堂島孝平佐藤タイジ(THEATRE BROOK)の二人がゲストで出てくるとアナウンスされていて、「えー、吾妻さんだけ見たい」とたかだか半年前に初めて吾妻さんを知ったおれ、いっぱしの吾妻ヲタみたいに不安がっていたが、このゲスト出演も非常に活きていた。一曲のみのゲスト参加、しかも出てくる時と下がる時はバッパーズが登場および退場のテーマを演奏し、それに合わせててきぱきと出てきたり、ハケたりする。なのでメリハリがあるし一曲ならもっと共演して欲しい気持ちにもなるし拍手で送り出してあげたい気分にもなる。また、ゲストの使い方が巧かった。堂島さんはこの1曲の出演のためだけにアラバキに来たという。「小学校のあの娘」のボーカルをつとめた。彼の高めで甘くクセのある声質が、ノスタル感をどれだけ出せるかがキモとなるこの曲にパーフェクトにマッチしていた。サビの<涙でもう、ボロボロかい>のあたりなどは吾妻さんとタメを張れるほどグッときた。最後に元気が有り余っていたのか、バック転をして帰っていった。吾妻さん曰く、堂島さんの曲をやろうとしたらバッパーズには難しくてできなかったので、この曲で参加してもらったということ(ウソかほんとか判らん。たぶん、両方であろう)。

佐藤タイジはバッパーズの『Hepcats Jump Again』に入っている「Bongo Boogie」の演奏にギターとボーカルで参加。吾妻さんと交互にギターソロをかまし合う、とても長く愉しい時間があり、ライブの白眉となった。咄嗟の創造性を激しくぶつけ合う(、けれど笑顔の)ギターバトル。最後は吾妻さん、もう手練手管総動員で万策尽きたとばかり、パンクバンドみたいに、ベーンと大雑把にギターを鳴らし、アンプにちかづけてワーンと鳴らすだけの、禅の境地へ。ここまでの間、ほとんどホーンの八人がお客さんになっていて、吾妻さんの奮闘ぶりに爆笑していた。

ライブということでちいさなお遊びも随所にあった。「最後まで楽しもう」では冒頭の「電車でさバスでさ」のところで、吾妻さんとボーカルをとるホーンの人が電車やバスが走るかわいい手振りを行う。最後、つぎつぎ駅名を言うところでは、高尾や大月が、仙台や秋田になっていた。「150〜300」では<エクセルの魔術師>がなぜか<アクセスの魔術師>に、「道徳HOP」では道徳を守らない忌むべき連中について、<おまえのことだぜ>から<あいつらのことだぜ>と唄ってステージ後方を指さし、バッパーズファンの行儀の良さを讃えた。初めて聴いた「栃東の取り組み見たか」は栃東が張り手を張られる場面で、岡地さんがパーカッションか何かを乱打するのが良かった。栃東はクアトロに来るかもしれないらしい。

1.THINGS AIN'T WHAT THEY USED TO BE 2.最後まで楽しもう 3.栃東の取り組み見たか 4.道徳HOP 5.Let your hair down 6.小学校のあの娘 7.Bongo Boogie 8.150〜300 9.学校出たのかな
※セットリストはmixiのコミュニティの書き込みを参考にしました。

やっぱりあっという間だ。それでアラバキは二日間遊んで、いろいろ他にも見たのだが、あれ、ヘンだ。タイムテーブルを見返しながら思い出しているのだが特に書くことが…。ビークルもミドリもUAも愉しく見たし、初めて見たフジファブリックは大変技巧的でプログレッシヴだったし、envyは場違いで音もバカでかくて面白かったし、ROVOはREOMと新曲とNA-Xの3曲で終わって面白くなかったし、チャットモンチーはこれからさらに売れていきそうなオーラがあったし、こちょこちょ色々あるけれど、バシッと書いておきたいようなことは、あまりないのだった。

#あ、忘れていた。吾妻さんにはテレビの音声技術の現場時代を回顧した名エッセイがあるので、吾妻さんにピンと来ないという方はぜひご覧下さい。 http://www.tokuraren.org/Rpts/Frm3/No73/MeMic.htm ちなみに掲載元は、『特ラ連(特定ラジオマイク利用者連盟)レポート』。