SPIRIT SOUL FLAVOR Vol.3

確かに幕張では「SENSATION」で、一瞬視界が塩っ辛い水で曇った。それは認めよう。しかし正直言って、先週のSUMMER SONICBEAT CRUSADERSは、よく判らないうちに終わってしまったというのが本音である(曲が短いから、大体いつも<なんだかよく判らないうちに終わってしま>うのだが)。久しぶりのモッシュピットでのライブ鑑賞が、おれに自分のペースを失わせたのかも知らん。

そういうことで、これで終わらせる訳には行かないのよ(昨日のDavid Grubbsも見に行けなかったし)と、池袋西口の湿った地下空間から救い出してきた元放置自転車を転がして上野池之端へ。今日みたいな曇天じゃなきゃ、きっとプチ桃源郷のように見えるだろう不忍池を臨む格好で建っている上野不忍池水上音楽堂(http://www.artistbank.net/tomaru/ueno.html)で、こういうのも野外フェスと呼ぶのだろうか、「SPIRIT SOUL FLAVOR Vol.3 -BOYZ OF SUMMER-」を見る。

開演を1時間過ぎた16時ころ公園に着いて会場に接近していくと、日比谷野音の音漏れ度を1ヤオンとするならば、それの3倍くらいの大きさで、二組目のクラブジャムンの演奏が聞こえてくる。鉄柵の隙間越しに場内が見えるので、なんだなんだと見物しているおっさんがいたり、あるいは入口のところで赤ん坊を抱きながら立ち尽くしている爺さんがいたり、「何がやってんの、ばあちゃん?」と微妙に助詞が前後の単語をつなぎ切れていない問いを発する孫に対し、無言で笑顔見せるばあちゃんがいたり、はたまたベンチで身体を揺らす路上生活者がいたり、会場の周りには、不忍池ならではの人々のたたずまい。

会場はすり鉢状の半円になっていて、若者たちでよく埋まっている。水上音楽堂というのは伊達ではなくて、ステージ前には180度の分度器みたいな形の人工池があったり、会場の横っちょの部分にも同じような池がちょろちょろ流れている。

すれ違い続けているthe band apartは一番手で今日も見られず。クラブジャムンの後のストレイテナーは相変わらず自分には縁遠い曲を一生懸命にやっていた。4組目はシークレットゲストで、正体はHUSKING BEE。ボーカルの磯部はhidakaのお面を被って登場し、会場から温かく迎えられていた。この辺りでおれは気付くのだが、この企画はビークル主催のイベントであるらしい。ビークルTシャツの多さや、アスパラガスがトリに近いという点が腑に落ちた。

さっきまで上野動物園でパンダの世話をしていたが、音につられてやってきて良かった、「通りかかって見るもんですね」、また演奏を終えたら仕事に戻る、という内容の磯部氏のMCはとぼけた口調で笑えた。日本語詞と英語詞の曲を半々くらいで演奏。やっぱりこの辺で気付くのだが、各バンドの持ち時間がこの手の企画にしては短い。ハスキンなんか30分やったろうか。

つづいてすっかり日が落ちたころ、ASPARAGUShttp://www.3p3b.co.jp/asp/aspbio.html)。見るのも聴くのも今日が初めてだが、予想通りきれいなメロディの曲が多く、入り込み易い。hidakaは今日のライブをアスパラガスの長いツアーの前哨戦だと言っていたが、アスパラガスのツアーは途中までビークルとのスプリットツアーなのだが、東京(渋谷と町田)はそうではないのだ。渋谷に行くかどうかは『KAPPA』を聴いて決めたい。

ちなみに渡辺のMCも磯部に負けず面白かった。ロックオデッセイに始まり、サマソニ、フジと、この夏はフェスティバルを総なめにしてきた訳ですけれども…と出だしから自虐的なネタで笑いを誘い(フジは4日目のグリーンステージだったそう)、ぶっちゃけこういうのに何も呼ばれない、一昨年バンドアパートの企画に呼んでもらったくらいで、いつも友人たちに呼ばれて出るだけである、「来年(誘ってもらうの)はハスキンあたりかな〜」、「自分から企画はしないからね、怖いから」という脱力したMCで、天井の脇から吹き込んでくる雨を忘れさせた。「最後に誘ってくれたぼくの親友のダカさん、ありがとうございます。持つべきものは友達です」というような気持ちのいい言葉も。

しかしながらアスパラガスも早かった。瞬く間にトリのビークル。格好は全員、先月nestで見たのと同じコスチューム。マシータはトラ柄のパンツ一丁。五人が放ったお面のいくつかは、惜しくもおれの頭上を飛び抜けていった。

1.JAPANESE GIRL
2.LOVE DISCHORD
3.曲名失念
4.E.C.D.T.
5.Imagine?
6.GIRL FRIDAY
7.BE MY WIFE

ライナーにFUGAZIに捧げるとあった「LOVE DISDHORD」はよくよく見るとマシータのドラミングがすばらしい。「E.C.D.T.」はサマソニと同じ感じで、メジャーになってから自分たちを知ったというメールがたくさん来る、そんな人たちのために名刺代わりにこの曲を、というMCで始めていた。2〜5の順番の正否は怪しい。中盤のMCでメンバー紹介の際、hidakaが博多弁で自己紹介し、なんか向井っぽいなと思ったら、インディーズからメジャーに移った自分たちを、強引に黒船によって鎖国を解いた江戸に持って回った言い方でなぞらえ、直後に「向井秀徳と申します」(大意)と言ったのだった。他愛もないことだが驚いた。おまけに「向井秀徳より自分の方がカッコいい」(大意)とか、下手に向かって「ひなっち、伝えといて」(大意)とか言い放っていた。おれは「どっちもどっち!」とステージに叫びたくて仕方なかった!

それにしてもこの企画はトリまで早いのか(本当に7曲っきりだったのか? 自分の記憶に自信がなくなってきた)。「Christine」も「sensation」もやらず、本編は風のように過ぎていった。しかしその後に、この上なくデカイ一発が待っていた!

encore.ISOTONIC

この企画の後にアスパラガスは長いツアー(http://www.3p3b.co.jp/news/kappatour.html)に出るので応援してあげてくれ、というようなMCに続き、渡辺がキャプヘジ時代に、メンバーチェンジ前のビークルと作った曲を去年のアストロホール以来、1年ぶりにやる、というヒダカの予備校の人気歴史教師のような簡潔にして丁寧なMCがあり、会場の期待はぐんぐん高まっていく。そしてその期待感を、1人で5人分くらい押し上げているのが他ならぬ自分である。「それではしのっびー、お願いします」(大意)というヒダカが声をかけるも、渡辺はまだ準備ができておらず、何秒か(ほんの数秒だが長かった!)おれを焦らした末、搾り出すような声で「アイソトニック!」。

先月からDVDで何十遍も見聞きしてきた曲だ。実際に聴けるとは思ってもいなかった。大興奮のおれは、思わずパラパラを踊っていた!

最後の「ISOTONIC」がまさに象徴的だったけれど、この界隈のバンドの結束の強さを感じさせる好企画だった(hidakaがネットフライヤーに寄せた『KAPPA』と渡辺について書いた文章にリンクを張っておきたいが見つからない)。そして今週末からのKAPPAツアーでは、この至福のアイソトニックが連日各地で鳴り渡るのか? おれは一瞬、今週末の水戸行きを考えた。