最近届くスパムはどんどん質が高くなってきていて、出会い系の癖に素人女性を装ったメールなど読むと、「この人、本当にどこかの掲示板で一緒だったのかも。だってほとばしるこのリアリティ。」などと考え込んでしまう水準の高い(つまり迷惑な)ものもあるが、大丈夫、自分はもう1年くらいウェブ上の掲示板に書き込みをしていない。

独りよがりは嫌いなので自分に届いたちょっと面白いスパムなんかを小粋に紹介する日記などは固く禁じてきたが、とにかくまあ、そういう自己規制を打破して自分の紹介欲をGIN-GINにシゲキしてくるのが今日届いた以下のスパムである。

はじめまして。大石オブジョイトイと言います。
セックスフレンドを募集されていましたが、
もう締め切りましたか?まだでしたら、
ぜひなってみたいと思っているのです。
近い処に住んでる人ですし、とても気になったので。
簡単なプロフを、自己紹介をします。
名前は早苗ですが、
友達からはオブジョイトイと呼ばれています。
しゃべり方や文章が日本人じゃないなんて
言われて、そういうあだ名になったのです。
ですが、日本人です。
あと、顔とかしぐさが、エロいらしいってのもあるのです。
自分でも、オブジョイトイと名乗るようにしています。
歳は21歳です。今までの男性経験は、14人です。
オブジョイトイ、セックスが好きで、趣味です。
趣味は趣味と割り切ってるので、風俗で働こうという
気持ちはありません。いまは空間デザイナーの見習い
をしています。
それからオブジョイトイ、ちょっとMッ気があります。

ここまでで、もし希望するセックスフレンドじゃないと
感じたら、そのまま無視してください。
お返事いただけたら、もっと具体的なことを
決めていきたいです。私の画像も送ります。
いきなり送ると、ウイルスかと思われそうなので。
オブジョイトイでした。

まず、大石という名字が良い。「鈴木オブ〜」や「木村オブ〜」では醸造しえなかった不器用な味わいを生み出している。自分はかつて島田雅彦『優しいサヨクのための嬉遊曲』を、書き出しですでに勝負が決まっている小説と書いたが、これにも完全に同じことが言える。また、立ち上がりでそこまであった空間を完全に刷新しているという意味では、ZAZEN BOYSの「DAIGAKUSEI」における吉兼聡のギター、あれの最初の何小節かが鳴った瞬間とまったく同じだ。

つづけて見ていこう。<しゃべり方や文章が日本人じゃないなんて 言われて、そういうあだ名になったのです。>に感じる素朴なリアリズム。<簡単なプロフを、自己紹介をします。>という文章には、これは微妙に同義反復なのではないかと、さっとスパムを読み流そうとした読み手を一瞬金縛りに遭わせてしまう練られた巧さがある。「インリン」でなく、「オブジョイトイ」の部分をあだ名に設定するセンスは、サブカルがまだアングラと呼ばれていた時代の土俗的な匂いがする。そういう意味では後の空間デザイナーの見習い>という職業設定と時代考証上の齟齬を来たしているものの、<いきなり送ると、ウイルスかと思われそうなので。/オブジョイトイでした。>という礼儀正しさと不条理が混交するラスト二行のコンボがマイナスを救っている。

ここに立ち現れているのは、もはや、あの、文学ではないか。