渋谷で行われるオシリペンペンズDCPRGの対バンというサブカルごのみな企画への欲望を振り切って、the band apartの3rdアルバム発売ツアーを見に品川ステラボールへ。品川プリンス内の一施設で、おそらく水族館や映画館と一緒にできたのだろう。高輪口交差点前のビルの真裏にある。敷地に入ったら、メリーゴーランドだのシネコンだのが煌びやかに広がっておどろいた。これは本物のアミューズメント施設である。以前このあたりにあるアミューズメント施設といえば、高輪口交差点を渡りながら見上げた先にあるアンナミラーズくらいだった。

かつておれはここで究極のパンチラを目撃したことがある。交差点から視線を上方へ向けると、向かいビルのガラス張りの二階、あのおなじみの制服をまとった脚の長いウェイトレスがこちらに背を向けて、くの字の姿勢になって懸命にテーブルを拭いていた。まるでおれの欲動を見透かすように執拗にテーブルを拭いていた。おれは目を逸らした。そしてまた戻した。逡巡してガン見した。その数秒間、交差点を渡りきり、二階が自分の真上に来るまでの永遠にちかい一瞬の数秒間、そこは至上のアミューズメントだった。おれは合法的窃視者だった。

さて、なんだっけ、そう、アミューズメント施設であるが、知らぬ間に品川プリンスにこんな途轍もないライブホール(http://www.princehotels.co.jp/shinagawa/aquastadium/livehall/)ができていたとは。入場するなり驚いた。AXよりもキャパがあるだろう。最大で1850人くらいと書いてあった。今日も1400人くらい入ったそうだ。O-Eastみたいな横長のライブハウス。内装はステージに入るまでの感じも含めて高級感がある。長いロビーは劇場のようだ。ステージの左右につり下げられたスピーカーはしなやかな曲線を描いて客席を睥睨し、今風な感じを強くする。

オープニングは中尾憲太郎率いるsloth love chunksで見るのは二度目だがやっぱりあんまりピンとこない。唯一、中尾の長髪を振り乱してヘッドバンギングしながらの演奏スタイルにのみ華を感じた。バンアパの家に遊びに行ったら誘われて出たと言っていたが、アウェー感が強かった。

the band apartは彼らとしても例がないくらい長い演奏となったようで、新旧あらゆる曲をやった。瀟洒で緻密な楽曲づくりは新作も変わらない。しかしどれも似たり寄ったりな印象を持ってしまうおれはファンになり切れていない。すこし長く感じてしまった。ベースの人はクマみたいにずんぐりむっくりなのに、声色や喋る内容がすごくカッコ良いという、キャラクター的にはとてもおいしい人なのだが、ちょっと作りすぎているというかウケることを意識しすぎている感じがして今日は笑えなかった。一方ボーカルの人は篤実そう。配布された『ディーガ』のインタビューによると、この人と、あと実はドラムの人がキーマンなんですねこのバンドは。

脱線するがこのホールで面白いと思ったのは、品川プリンス内の一施設ということで、会場後方に設えられたバーカウンターにいる係の人が、正装したホテルマンなのだ。プリンスのバッジつけ、ぴしっとスーツ、ネクタイで固めたホテルマンが、タオルを巻き巻きしたキッズのオーダーに忙しく対応していて、そのコントラストがおかしみを誘った。そしてこのカウンターはバンドの演奏中は、シャッターを閉じてしまう。バンアパ前に水分補給しようと、シャッターの前に群がる観客たち。ようやく開いたシャッターの向こうのホテルマンは、しかし冷酷にも、ビールが切れたことを列に向かって宣言するのだった。ソ連の配給のような光景にシビれた。

終わってから新宿まで流れていって、同行したNさんにロックバーを紹介してもらい、フロアーでバーナード・サムナーや向井秀徳の歌声に合わせ、終電までぎこちなくダンスを踊った。