人生の一人相撲


銀座福屋書店での佐藤寛子サイン会には参加できなかった。その言い訳を以下に記す。

金曜晩、とんびのからあげさんとK元S吉さん主催「ポル会」という宴会に呼んでいただいた。下落合のTの湯という銭湯の二階が大宴会場になっており、イメージ通りの温泉宿の貸し切り宴会場といったたたずまいなのだが、大袈裟な金屏風を背景にしたステージがあったり、埃を被ったグランドピアノが隅に置いてあったりでキッチュというかビザールというか、どこかヘンなんだ。ピアノの上に乱雑に撒き散らされているのはこの店を愛した有名人たちの貴重なサインであった。酔っているのか素面なのか判らないグルーヴィーな店の親爺さんが面白くて、各自めいめいの関心に基づいて店と親爺さんの歴史にスポットを当てていた。宴会場の一角、弾薬庫みたいなところに段ボールが山と積まれていて「これ全部持っていっていい」と言われてハコを開けてみたら、足の指のあいだを拡げて水虫を防ぐ効果がある、輪っかみたいなのがワサワサ出てきてみんなでそれを足の指にはめた。ほかにも防犯ブザーみたいなのが同じように山になっていた。シュールSGILL。

旧知の方や初めてお会いする方がぐちゃぐちゃになっていたが、雨宮処凛『生きさせろ!』(太田出版)、矢部史郎と山の手緑の『愛と暴力の現代思想』(青土社)などサブカルチャー系の労働関係の本を面白く読んでいるところだったので、カナダから帰ってきたばかりのDニウソンさんを宴会場でとらまえて、小一時間ほど議論に付き合って貰う。さぞ迷惑されたと思う。

お湯に入ってからくつろいで飲むのは最高だ。去年末、DJぷりぷり氏が蒲田の温泉でロックフェスティバル(の、ようなもの)を開催していて、おれはそれに行けなかったけれども銭湯で開かれる宴会に興味を持っていたのでエキサイティングだった。つぎのスーフリナイトはこれくらいインパクトを持った会場で(は無理だとしても、ちがった要素を入れて)やりたいものだ。

Tの湯・大宴会場を途中退出して、西武線で馬場に出て、エロ編(id:erohen)、S加らの宴会に合流した。K林さんがメキシコから帰ってきたお祝いという主旨だったと思うが、もうけっこうめろめろになっていて、非正規雇用者たちが最低限の水準で生きる権利が……という演説をかまして迷惑がられ、店員に注意される。

カラオケに流れ、嫌がるエロ編は即座に爆睡し、誰もがそれほど乗り気でなさそうな空気を放つ中、曲が入っているのを確認するなり即座に銀杏BOYZの「あいどんわなだい」をハードコアなスタイルで絶唱し、でんぐり返しをしてから足を垂直上方に伸ばして自転車を漕ぐように上下させた。やがて終電時間あたりでとんからさんと友達がなぜか乱入してきて、これを好機と見たS加ほかが部屋を脱出。おれ以外のすべてのメンバーが入れ替わるという(どんなカラオケだ)、まるでハウンドドッグやTulipのような展開が起こったがおれはそれを好機と捉え、おれは一晩で都合3度、「あいどんわなだい」を唄うという大蛮行に及んだ。おかげで完全に酒が頭どころかつま先まで体全身にまわり、気が付いたら明け方、カラオケ屋の建物の中の、どこかちがうところで意識を取り戻した。まるで『グインサーガ』のオープニングのようだった。部屋番号を失念していたために、建物中をくまなく徘徊するも全員すでに引き上げており、公衆電話でとんからさんに近くで待っていてもらうよう頼み、彼が回収してくれていた荷物一式を受け取って帰る。

25日。渋谷のスタジオでバンドの練習。おれは「スタジオでバンドの練習」と言いたいがために「ryuto taonと抱擁家族」の活動を始めたといっても過言ではない。バンドではなく、ユニットだけど。「MCとラップトップを基本とした、二人組のエレクトロヒップホップユニット」と公称しているものである。

ryuto taon君にこないだのスーフリナイトでデビューライブの録音を焼いてもらった(その日の様子はムネカタさんにレポートしてもらっているのだ。恐ろしいことですね)。スタジオででかい音で聴く。Hoseの録音に立ち会ったループラインの坂本さん(id:loopline)にPAをしていただいたから、無駄にプロ仕様のクリアーな音質である。つまむように聴いてみて、ところどころグルーヴの片鱗らしきものが立ち現れている部分もあるが、おおむね酔っぱらいの駄法螺のように聞こえて大変恥ずかしい。言葉もすっと出てこなかった様子でひとつひとつを繰り返しすぎている。猛省してつぎは酩酊感がもたらすインスピレーションに頼らずやろうと思って、昼だからということもあるが、たぶん初めて、酒を飲まずに練習した。即興的に喋っていて、何度かくっきり映像が浮かぶようなことを喋れたし、ある時には前掲の労働関係の本で仕入れた話を右から左にアジテーションみたいに投入して雰囲気を作ることができた。終了後、労働階級の拠点「サイゼリヤ」で今後の会議などする。「とりあえずmyspaceを持たなければミュージシャンではないし、逆にmyspaceがあれば、曲がなくともミュージシャン」ということを話した(「しかしその前にアー写がない。まずアー写だ」という話にその後、なる。半分真剣だから、タチが悪い)

夜はyanokamiのライブを恵比寿リキッドルームで見る。このユニットに今後の予定はないが「矢野さんが飽きない限りまた続けていきたい」というようなハラカミらしいMCがあった。終わってからムネカタさんかおりんさん、ryuto君と焼肉を食いながら昔話と近況交換で盛り上がった。ひろゆきの新書を激賞したら、ムネカタさんがmouraでの連載が終わるまでネット関係の本を読まないようにしていると言っていたのが印象に残っている。

最寄り駅を降りたところでとんからさんが電車が無くなったから泊めてくれという連絡が入って、不意打ち的に宅でちいさな宴会が始まり、とんからさんが買ってきた酒と肴でYou tubeの各種面白映像を見て夜半に寝た。だから佐藤寛子には会えなかった。