なつかしい友への誤配された手紙(7日〜9日)


飛行機乗りつぎ15時間(たぶん)。はるばるニューヨークはマンハッタンまでやって来ました。

ZAZEN BOYSのライブを目撃するのをひとつの目的にしていたのですが、一昨日(7日)のニュージャージー公演は見られず。NJはNYに隣接していますが、会場はマンハッタンのペンステーションから電車で二時間半というへんぴなところ。しかも成田で乗るべき便に間に合わず(仕事おわり徹夜で荷造り、佳境で居眠り、空港につくのが15分おそかった)、さらにJFK空港でスーツケースが待てど暮らせどでてこず(次第に荷を待つ人が減っていくさみしさ)、時差ボケも激しく(着当日の20時以後は、みんな眠くて何もできなくなるそう)、失意のどんぞこでスーツケースをきょうは諦めろと、無愛想な係員に勧告されてマンハッタンはチェルシー地区ユニオンスクエアそばの宿へ着いたのは現地時間22時過ぎ。そんなさみしい初日の晩でした。

しかし昨晩(8日)は友人Nの同行も得て、マンハッタンで無事、ザゼンボーイズを見ることができました。会場はソーホーのはずれのPianosというバーで、昨年のZAZENニューヨーク巡業でもライブが行われた馴染みのところのようです(今回は3日連続の強行軍なのですが、6日の会場も近所にあるそう)。ライブスペースは、シェルターを1.5倍にしたような、ちょうどよい広さのスペースで、バーの奥にありました。バーの客でライブを見たい人だけ、スペースの入口で別会計(8ドル?)する仕組み。バーは1、2階のツーフロアで、二階でもラウンジスペースでちいさなライブが行われていました。

総じて雰囲気のよい会場で、飲み屋がまず主役であり、その延長上にライブとライブスペースがあるという、アメリカ人のライブ観がよくわかる設計になっていました。

ライブは、統一的な企画性のあるものではなく、ばらばらな出演者を縦に配した感じ。20時から始まりましたが、さいしょの1時間はコメディショーで、スタンダップコメディの人たちが何人か出たそうです。21時、22時台にはそれぞれバンドが出演しましたが、音楽的連関性はありませんでした。後者はけっこう楽しめました。

23時15分ほどから始まったライブは7曲ほど。最新作を中心にした日本でのそれに良く似たセット。1.himitsu girls top secret,2.honnoji,3.weekend,4.Asobi,5.I dont wanna be with you,6.cold beat,7.riff man,encoreで kimochi でした。曲紹介の際は、"our lyrics are Japanse,sorry,but please feel!","Next song is I dont wanna be with you,but I wanna be with you!",アソビでは"asobi-tarinai means not enough!"など、いずれも大意ですが、向井さんらしいMCがありました。停止や発進のめりはりがある曲では、心なしか吉田一郎の掛け声が、野太くひびきました。向井さんはKBを持ち上げて、歯で演奏する場面もありました。吉兼さんのダンスも、キレと面妖さを増していました。

正直、PAはリズム隊を抑え気味にした保守的なものでしたが、それを気にさせない熱意の演奏でした。Asobiの吉兼さんのパーカッションは、焼酎「ビッグマン」を使ったものではなく、地元のお酒のペットボトルをつかっていたことを特記しておきます。

客席は、まえ2列はほとんどが日本人でした。会場は最後のriff man kimochiあたりでは満員になり、音を聞きつけたアメリカ人の割合も増えました。全体で3割から3割半が日本人だったのではないでしょうか。在留日本人も多くいたようです。

武者修業的他流試合で乗り込んだ先で、けっきょく日本人ばかり…というのはバンドにとってどうなのかと、始まったときには思い、かくいうぼくも、いい気な日本人ツアリストだし、とうしろ暗い気持ちになりましたが、バンドはそんなことは気にもせず、聴衆の感触のよさ、音を聞きつけて増えていくニューヨーカーに、手ごたえを感じていた様子でした。MCによれば、9月にもう一度、NYCに来るとのことでした。

ライブ後は、日本人が好きだというおねえちゃんと話をしたり、18歳なので会場に入れないことが分かっていながらも、会場入り口まで来て、扉からもれ聞こえるノイズを懸命に聞き取っていた青年らと話をしました。後者の熱意は大変なもので、number girlがいちばん好きなバンドだとのこと。札幌の解散ライブの話をしたら非常に乗ってきて、i-podを見せてもらうと、distotional addict,destruction babyなどの懐かしいジャケット画像や、日本のオルタナティブなロックバンドの名前が目白押しでした。似たような趣味の友達はいないと、苦笑していましたが。ちなみに青年が好きな曲は、ウィスキーアンオウヌボレ、ハラヘッタだそうで、大変立派な趣味です。

ライブスペースに残って、ぐうぜん(?)会った『HB』のハシモトさん(id:hbd)や現地の日本人の方などと話をしました。NYCは一度住むとやめられなくなるという、ある方のことばが印象的でした。

ライブの話はここまでにして、昨日はスーツケースなしの生活だったので、友人にマンハッタンのしまむらのような店に連れて行ってもらい、上から下まで、一式下着を買い揃えました。なにかとても、むなしい気分がしました。3枚10ドルくらいのパンツは、Mでもぶかぶかでした。また、夕方までは時間があったので、ひたすら歩いて、グラウンドゼロや自由の女神のほうまで足を伸ばしました。WTCには以前上ったことがありますが、ディテールは忘れてしまいました。なので、見に行ったものの、だだっぴろい工事現場を見たな、という気分にしかならず、かるい自己嫌悪になりました。

今日9日から、リトルトーキョーそばの別な友人の家に寄せてもらっています。家のなかの様子もそれっぽいので、こうして日本語がつかえるラップトップでミクシィはてななどやっていると、日本にいるみたいです。しかし、喧騒がして、窓から下の駐車場を見下ろすと黒人の子供たちがアメフトあそびをしているのが見え、マンハッタンにきているなという気分になります。

あまりずっとキーを叩いているので、外にでかけたらと友人から呆れられました。今日は雨なので、あまりがつがつした観光はしませんが、博物館など見てこようかと思います。また、二度ほどバーンズアンドノーブルに行きました。チェルシー地区ユニオンスクエアまえのB&Nは、NYC最大の面積だそうです。著者によるトークやサイン会などの予定が入口に貼られ(どれも写真付きで、プロの写真家によるポートレートなのですが、ジュンパ・ラヒリは美人でした)、店内にはカフェはもちろん、自由に閲覧できるイスがあちこちに配され、熱心な立ち読み読者に占有されていました(店内にかぎらず、こっちにはカフェやレストランなど、いたるところに老若男女とわず熱心な読者人を見掛けます)。また書籍の検索システムも優れており、結果はその場でプリントできます。と、ここまで書けば分かるように、このお店はたたずまいや設計がジュンク堂ときわめてよく似ているのです。JがB&Nに倣ったのか知りませんが、興味深いです。

文藝の新刊コーナーを見ていたら、ドナルド・バーセルミ浩瀚な伝記が出たのですね、先月。ポートレートをデジタル加工した、白ベースのかっこいい装丁で、欲しくなりました。買います。また、バーセルミのペーパーバックは、アマゾンではなぜか絶版で、大変な値段がマケプレでついているのですが、なぜかB&Nにはいろいろと在庫がありました。マンガつきの洒脱な短編集、バラエティブックがあったので滞在中にもう一度行きます。贔屓にしているナボコフは、棚のなかであまり目立っておらず、とくに変わった本も刺さっていませんでした。

あ、スーツケースは友人の家のPCで航空会社に照会すると、すでに届けたとのこと。あわてて今朝まで滞在していたホテルに連絡したら「昨日とどいた」とのこと。友達に言わせれば、ニューヨークでは、自分が切りださないと何も進まないというか、無関心というか、万事こういう調子なんだそうです。また、乗り継ぎでスーツケースが行方不明になるのも、日常茶飯事だとか(デトロイト乗継だったのです)。

では時間があれば、また手紙を送ります。さようなら。