ぼく(たち)の好きな冒頭 9、あるいは、『青白い炎』を読むつもりじゃなかった

 四つの詩篇に分たれ、九百九十九行より成る、英雄対韻句(ヒロイック・カブレット)の詩『青白い炎』は、その生涯の最後の二十日間に、アメリカ合衆国アパラチア州ニュー・ワイの自宅で、ジョン・フランシス・シェイド(一八九八年七月五日生れ、一九五九年七月二十一日死去)によって書かれたものである。それをもとにして正確に印刷されたこの校定本の原稿(大部分<清書原稿>)は、八十枚の中判索引カードより成っており、その一枚一枚のカードの上に、シェイドは見出し(詩篇数、日付)用にピンク色の上部罫線を使い、先の細いペン先を用いたすこぶる明瞭な筆跡で、十四本の薄い青色の罫線に詩の本文を清書しているが、ダブル・スペースを示すため、一行飛ばして書いたり、新たな詩篇を始めるたびにいつも新しいカードを使用している。
「前書き」ウラジーミル・ナボコフ富士川義之訳『青白い炎』ちくま文庫


しばらく重たいものや長いものが続いていたので、いしいしんじ三浦しをんなんかを読みながら慣らし運転して、でもそれほど覚悟が決まっていた訳でもなかったのに。地味に『白鯨』あたりにするつもりだったのに。