2-2.電撃的石狩2

それからはしばらくムーンサーカス。高橋幸宏はステージ前端にながーいテーブルを渡して、横一列に四人が座る。左から、高田蓮(よく分からない)、高橋氏(つまみ、パッド)、権藤知彦ユーフォニウム、ピアニカ?、コンピュータ)、そして高野寛(いろいろな音が出てきてシンセのようなギター)。曲は新譜からあまさずあの曲もこの曲も。2曲目には「CUE」。たぶん増上寺やフアナ・モリーナと出たリキッドルームと寸分たがわぬセット(ブログ見回す限り)。MCでは、今日の演奏は気持ちがいい、先日野外フェス(増上寺のスローミュージック?)に出たら1曲目で蜂に刺されて、ロマンティックな顔をしてむりやり唄い続けたというような話。そのたたずまいと端正な音に興奮したが終わってみるとその動きの少なさに、CDで聴けばいいかもと結論づけてしまうおれは青いか。

そのまま30分いちばん前に居座ってrei harakami feat. 矢野顕子を見た。矢野さんによるとユニット名は「やのかみ」。まず4曲、「(会場を)あたためるため」にハラカミが一人で出てきて、せわしなくつまみをいじりながら猫背でソロ。『わすれもの』から1曲、あと3つはすげえ有名な曲です、CD、人の家でしか聴いていないから曲名が分からないが。レッドカーブとかラストとかだきっと。それでじゃああっこちゃーんと呼ぼうというハラカミの呼びかけがあり、みんなで呼ぶのだが、直前に「おまかせの方じゃないよ」というのは一言余計だ。いらん言葉で身を危うくする彼の人柄に共感した。矢野さんの流暢な英語の発音も茶化す気はないのだろうが突っ込み入れていたし。

声に応えるように矢野さんが出てきたら、「かわいい〜」って声があちこちに。しかし気持ちは分かる。失礼だけど、年を重ねるごとにきれいになっていく女性だ。左手に鎮座するピアノには向かわず、ステージ中央でスタンドマイクに向かう。めずらしいな、立って唄う矢野さん。「おわりの季節」。細野版の明るさには負けるが、ハラカミ版の不穏な感じはない。可憐な明るさをもって、ハラカミのトラックに合わせて唄う。ももをパーカッションのようにリズミカルに叩いたり、かるくのけぞったり、動きのあるボーカル。次いでピアノに向かって、「David」、二年前にハラカミと作ったという「TRAIN HOME」というような曲、そしてハラカミの才能を知ったきっかけ(大意)という「ばらの花」を。この三曲はもちろん、ハラカミのトラックと矢野さんのピアノによる演奏。ハラカミの虹色のトラックがあるからピアノは若干口数少ない。痺れた。泣けた。コラボってこういうものだというような演奏。曲作りのために矢野さんがハラカミに電話をするとき、かならず最初に「いま起きてた?」というんだそうだ。それでハラカミは「あ、あ、あ、あ、起きてます」と答えるんだとか。矢野さんに萎縮しているというよりは、単に挙動不審なハラカミと矢野さんのやりとりは親子みたいでもある。

一旦ハラカミが退いて、「スーパーフォークソング」(隣の女の子が泣いちゃった)、「ローズガーデン(か分からないがたぶんこれ)」、「ごはんができたよ」をピアノソロで。途中ぼんぼんと花火が上がって、その音が演奏のちょっとしたスパイスになっていてよろしかった(すげえどうでもいいが花火にまじって向井秀徳の歌声が流れてきてソロいまやってんのか?と焦ったが今日ばかりは勤勉な向井ファンのおれもまんじりともしねえよ)。最後に「気球に乗って」ってのを二人で。幸宏さんと矢野さんの時間の間、石狩のはじっこで、今いちばん新しい音が鳴っていた。矢野さんは二人の共作について、リリースの可能性も仄めかしていた。

そろそろ佳境。ネットカフェの向こうからモーサムトーンベンダーの威勢のいいロックが聴こえてくる。