石狩余滴

ライジングサンについては、最後に最も衝撃を受けた二日目深夜のULTRA BRAiNについて書かなくてはと思っているのだが、あまりにもおれは難波章浩という人の来し方について詳しくないし(有名なハイスタンダードも、一曲も知らない)、どんなことを考えてきた人なのか、インタビューの類もそれほど読めていない。ただおれは、バンドや打ち込みといった区別を設けず、ビートとグルーヴの極北まで行けるならば手段を選ばないという、狂気さえ感じさせる姿勢と孤独なステージに度肝を抜かれた。この人の頭のなかを覗きたいと思った。

時刻は27時? 真っ暗な石狩に浮かび上がる軍艦のようなメインステージ。両サイドのビルディングのようなサウンドシステムは、禍々しささえ感じる強烈なノイズ、ビートを放出し続けている。そして中央のステージにはぽつんと立つ難波の姿。打ち込みに合わせてギターを気丈にかきむしるが、勇姿と言うには舞台が巨大すぎて、負けが決まっている戦いを挑んでいるような悲壮さを感じてしまう。

そもそも難波氏以外は全員がバンド経験のない素人という説明だったはずのULTRA BRAiN。しかし石狩のデビューステージに姿を現したのは難波氏だけだった。打ち込みを大音量で鳴らし続ける難波氏のパフォーマンスに、時間は遅いとはいえメインステージなのに、観客はまばら。それも次第にぱらぱらと散開していく。彼らが期待したようなバンドサウンドは鳴らなかった。かわりに目の前にいるのは、DJといえばよいのか、パフォーマーというのか、はてはギタリストなのか、爆音にギターを合わせる難波氏がいるのみ。聴衆の心の揺れを知ってか知らずか、淡々と自分にしか判らないルールと流儀でDJとギターをプレーし続ける小さな難波氏。おれはただ凄いものを見たという気がしてしばらく動けなかった。