9.3 Boyz of summer2006 於日比谷野外音楽堂

日比谷野外音楽堂BEAT CRUSADERS企画「BOYZ OF SUMMER」。三年目だが一年目の上野池之端音楽堂から二年きゃ経ってないのにビークルが音楽業界内で立つ位置は激変した。ファンも爆発的に増えた。あの時は確かまだ、メジャー一発目のCDも出ていない、メジャーと契約したばかりだったはずで、「Girl Friday」や「Sensation」といった曲を肩慣らしのようにインディーでリリースして試運転しているような状態だった(このころの曲はスカスカでシンプルだがけっこう味わいぶかい)。それが瞬く間にヒットチューンを連発し、一挙に今日のポジションまで来た。今やお面をかぶったポップ集団は、国民的バンドになりつつある。信じられますか。

今日もお約束のように、終盤で「ISOTONIC」をやったが、その時、旧ビークルのタイとCaptain Hedge Hogの一人がゲストで参加した。おれは一ファンに過ぎないのに、そのシーンを複雑な気持ちで眺めた。

第一期のビークルは、2003年の日比谷野音のライブをもって確か解散している。今回のライブ中、その時の野音を見たことがある人にヒダカが挙手を求める場面があった。しかし会場全体でも、両手で足りるくらいしか手は挙がらなかった。解散はたかだか3年前のことだ。ヒダカの悪運の強さとここ数年の大快進撃を如実にしめす情景だった。

この夏一番と言っていい暑さだったし、浴びるようにビールを飲んだので、あまりきめ細かく覚えていないから要点だけ書く。まず入り口で配られた印刷物を見ておどろいた。それは原寸大のヒダカのお面が配られたからではなくて、そのウラ面に刷られたつぎのリリースの告知を見てのことである。次回、メジャーでの「CELL NO.9」となるリリースはなんと、盟友TROPICAL GORILLAとのスプリットミニアルバムだというのだ。今年のYOUR SONG IS GOODとの共作以前から、ビークルはフロントマンヒダカが気に入った、もしくは勢いがあると感じたインディーバンドと、片っ端からコラボしてスプリットを出したり曲を出したりしていくバンドだった。しかしメジャーに来て、しかもインディーズで最も勢いのある売れ線のユアソンと出した直後のコラボレーションがトロピカルゴリラとは! 本当にびっくりした。そして、豪毅であり天晴れだと思った。

これは任侠の世界だ。15年のキャリアを持ち、時代に媚びないパンクをやり続けるトロゴリはビークルにとって盟友である。特にフロントマンのベーシストCimは、ビークルの過去のほぼ全てのPVに名脇役、悪役(キャプヘジとの共作「Isotonic」PVは忘れがたい)として出演し続ける、いわば看板俳優である。ヒダカのCimに対する友情が、今回、メジャーから強烈にトロゴリを牽引する動きに繋がっているのは明らか。最近の大型タイアップの連発、順調に行きすぎているバンドの展開に、ファンながらちょっと嫌らしいものを感じていて天の邪鬼なおれ、炎天下の野音でほろっと来てしまった。

そのトロゴリはCimがユーモラスな動きを披露して跳ねる! 後ろの女子高生はゲラゲラ笑ったり「かまボイラーに似てる!かまボイラー!」とまた笑ったりしていたが、そんな動的なリアクションは全然良い方で、今日一番アウェーな感じに悩まされたバンドだった。しかし終わった後は後ろの女子高生はカッコいいを連呼していたぞ。がんばれ!(余計なお世話)

前後するが一番手はASPARAGUS。アスパラは狭いところでやるほどグッとくる演奏になるバンドという仮説を立てていたが、デカいところでもなかなか良い。しかし体を揺らす人はごくわずかで、トロゴリの次くらいにアウェーな感じがした。インディーの時とちがって、ビークルは主にマス媒体を通じてリスナーにコミュニケーションしているから、その周辺のバンド情報なりなんなりがファンに伝わりづらくなっているのだ。それは仕方がないことだ。渡邊忍は脱力MCが冴えていて、「兄貴スキン(肌)」「先輩ウィンド(風)を吹かす」などの造語を軽快に飛ばしていた。

1.星キラキラな新曲 2.Far Away 3.YES 4.By My Side 5.Knock Me Out 6.Approach Me 7.Fallin' Down

「YES」は猛烈にカッコ良い。おれのi-tunesで再生回数段突トップ。2位はカップリングの「NO」。もう1年、聞き続けている。でもまったく聞き飽きないんだから恐ろしい。

「YES」は変拍子でこそないが、疾走したりのたくったりと、短い時間で緩急が変わるスリリングで複雑なポップソング。だがおれは全パートをクチで再現できるくらい聞き込んでいるので、完全に曲に合わせて全身を動かすことができるのだ。この日も完全なボディリスニングに成功した。あまりに完璧すぎて、終わった後に後ろの女子高生に声をかけられるというハプニングも起こった(笑いながら感心された)。

発表の予定のない新曲はある程度の複雑さは持っているが、ストレートに甘い曲でとてもキャッチー。『YES/NO』でひねくれ過ぎた反動なんだとおれは思うがどうですか。

あと中盤で一組、あきらかに今日の企画と毛色がちがったサウダージでジャムっぽくてストリートでモテそうなバンド(てきとう)が出ていたが何だったのか。レーベルメイト? ユアソンもビークルもあっという間だったがボリューム満点の企画だった。今後もヒダカはメジャーインディーを問わず刺激的なバンドを結びつけていく、希少な存在であってほしい。

最後に『TONIGHT,TONIGHT,TONIGHT』(表題曲がこの日いちばん盛り上がってた。「day after day」より盛り上がるとはどういうことなんだ)PRのリーフレットに兵庫慎司が寄せた文章から一部引用する。丁寧で読みでがあるこのリーフレットも、メジャーデビューから折に触れて愉しませてもらっている。とにかくデフスターレコード、仕事が丁寧だ。

そろそろもう、認めざるをえないのではないか。……ビート・クルセイダースというバンドが、名曲を書き名アレンジをし名演奏をする、極めてまっとうで質の高い音楽集団であることを。……何が顕著って、中庸なのだ、2曲(「Tonight,Tonight,Tonight」と2曲目)とも。……困ったことに、つまり、作戦や戦略で目新しさによっていい音楽を作っているのではなく、ただいい曲が書けてしまうから売れている。いいリフを、いいリズムを、いいブリッジを、いいメロディを作れてしまうから売れている。という事実を、そろそろ認めざるを得ないんじゃないかなあという話です。
 どうでしょうヒダカさん。

http://www.excite.co.jp/music/close_up/0609_beatcrusaders/
『Tonight,Tonight,Tonight』PRサイト@excite