Conti企画「#1」

西荻flatでContiの企画「#1」を見る。早めに西荻入りして、森田書店、音羽館をぱぱっと覗く。前者と後者は近所同士だが古書店としてのスタイルと立ち位置は真逆。前者は超ドメスティックな昔ながらの古本屋。特筆すべき点はなく、けれど悪い品揃えでもないのだが、半年前に来た時とまったく本が入れ替わっていないのに衝撃を受け、何かむなしい気分になる。まあ大抵のこうした古書店は、慢性的に在庫の回転の悪さに悩んでいるんだと思うが。いや、実態は判らないけれど、店主があまり悩んでいないか、もしくは諦めてしまっているというのが実際なのかもしれない。その諦観が棚の風通しの悪さを作り、おれを落ち込ませるのかもしれない。

一方で音羽館は今や西荻を代表する、こぎれいなニューウェーブ古本屋。細い通路にお客さんがひしめいていた。フィリップ・ロスの単行本、石川淳『白描』(集英社文庫)、高橋康也『道化の文学』(中公新書)、アルフレッド・ジャリ『超男性』(白水uブックス樽本周馬さんが将来刊行する未知のジャリ本に備えて。基本書ですけど!)を肩慣らしのように買う(あとで書きます。出入り自由だったのでライブ中も近所で買った)。

flatはできたばかりのハコで、都内14店を展開するRinkyDinkStudioの系列ライブハウス。系列にはほかに下北沢のERA、八王子のRIPS、新宿JAMなど7軒があるそう。グッドマンと同じように、貸しスタジオとライブハウスが一緒になっていた。会場自体も、ライブハウスというよりもやや広めの貸しスタジオという風情だった。合い言葉の「群馬県高崎市から来ました布袋寅泰です」をもじもじしながら言って割引してもらう。狭いからドリンクバーはなくて、券売の足下に冷蔵庫が置いてあってそこから取り出して渡される方式。50人入れないくらいの大きさ。

客の入りは30人ちょっとか。自主企画ということで主催のContiは45分くらいで長め。吉田達也のDNAを持ったドラムスとシタールのデュオ。だが二人のパーソナリティから来るのだろうが、世界観がもっと可愛らしく馴染みやすい。喋りだしたら止まらない、沈黙を畏れるようなMCもいつもより長く披露された。二人が同時に、まったく無関係な話を機関銃のようにするMCは音楽的だった。

optrum佐々木敦のUNKNOWN MIXから作品をリリースしたユニットとして、名前を聞いていたが見るのは初めて(Contiのドラムの人が「HEADZ傘下のレーベル」というようなことを言ったら「傘下とかそういうこと言うな(政治的にまずいというようなニュアンスで)」とシタールが禁じて、その冗談半分、半分本気みたいなやりとりが面白かった)。その界隈ではすでに相当な知名度なんだと思う。蛍光灯を使うということだけ聞いているので期待ばかり高まった。客もオプトラム目当ての人の方が多いみたいで、Contiの時は座ってグラグラ揺れながらガン寝してる男もいた。

ドラびでおや、もっと前だとグラインダーマンを初めて見た時の感動にちかい。ライブでありながら、パフォーマンスアートとして捉える人もいるだろう。ドラムと蛍光灯のデュオなのだが、この蛍光灯は音が出る。全長1メートル40センチくらいの、ごくごく普通の蛍光灯(より詳しく言えば台座にセットされた蛍光灯)を、ちょうどベースを構えるように両手で持つ。そして淡々と弾くかと思えば、ガンガン振り回したりしゃがみ込んでエフェクターをいじったりする。ほんとうに普通に蛍光灯で唖然としたが、構えるその姿は妙にカッコいいのだ。もちろん、オプトラムの演奏中はステージ上の照明はオフ。蛍光灯は6台のギターエフェクターが噛まされていた。インダストリアルなドラムをバックにして、高音と低音を出すのだが、高音はポヨポヨとシンセか作り込んだ音の出るギターっぽく、低音はデジタルハードコアのベースみたいにガーッと即快感神経を撫でまくってくれるような剛直な音が出る。それが一緒に出たり、互い違いに出たりするのはまず謎だった。音はどうやらプレーヤーの右手の指先のところにリボンコントローラーみたいなものが付いていて、それで制御しているらしい。というか、目の前で睨め付けるように観察していたのにそれくらいしか判らない。ほとんど民生品の蛍光灯そのまんまなんだからすごい。どこをどう改造したのだろう、そして蛍光灯は消耗品だからライブのたびに交換しているのだろうか、ライブ中そんな謎がいくつも去来する。演者のヒップホップみたいな格好、真面目そうな引き締まった表情もパフォーマンスに厳かさのようなものを与えている。弾き方も容貌もブンブンサテライツのベースをちょっと思い出させた。あと演奏スタイルは勝井祐二に近いかもしれない。印象でもの言っていますけど。

そして明記しておかないといけないのは、音と光の明滅が同期していて、そこに得も言われぬカッコよさがあるということだ。たとえば静寂の中、ハイハットがチキチキ鳴って、なんか始まるぞという雰囲気の中で、低音がガガッ、ガガッ、と鳴るのと一緒に、真っ暗な会場をピカピカ、ピカピカ、と音に同期して蛍光灯が光るというように。そのパフォーマンスに満足したし、そのハードコア、ノイズミュージック的テイストは、映像が伴わないCDで聴いてもイケると思った。

最後はContiとOptrumの合奏。これもお遊びでなく、前半はContiの曲にOptrumが合わせるという形式(Conti曰くContrum)、後半はその逆で行われ(同様にOpunti)、場に対する4人の真摯な姿勢が伝わってきた。特にオプンチは今日いちばんのトランス感。シタールをバックに鳴らして蛍光灯がぶりぶり言うと、両ユニットの不足分を相補うような形になって、カッコよさが増すのだ。バックで鳴るシタールはジャングルみたいなリズム感をもたらしていた。関係ないけどカヒミ・カリイの「ルハソレイユ」はポップスだけどボーカルメロディがジャングルみたいになっていますね。Contiのシタールを気持ちよく聴いていたら思い出した。