来年10周年を迎えるROVOは変貌のただ中にある

新木場STUDIO COASTROVOのCONDOR発売記念ツアーを見る。10月にRAW LIFEに日帰りで二日間行って今回のROVOだから新木場も妙に馴染んでしまってる。もういい加減来ねえと思うけど。ここはその日の演目が入り口のでかい看板に毎回描かれていてアメリカのライブハウスみたいな風情なのだが、これ毎日作り直しているのか?と不思議がって近くで見てみたら文字だけ浮き上がっていて、毎日アルファベットを一つ一つ組み合わせて作っているのかなと思う。その真下にかわいい猫ちゃんが座っていて、雰囲気がそぐわねえこと甚だしいが和んだ。会場は暗いしバカでかい。天井の照明設備がすさまじい(全く稼働していなかったが)。しかもホールの二階にVIPルームとかあるんだぜ。トランスギャルが来るような音も規模もデカいハコなのである。オープニングはDJ Quietstormが90分。きちんと見てないが、国籍不明な音と風貌がカッコよかった。

おれは天の邪鬼だから言うんではないがROVOはだいぶ変わってしまった。ROVOが、あるメンバーの家に集まってみんなでコタツを囲んでみかんかおにぎりを食べながら「何か宇宙っぽいことやろう」という合い言葉で始まったバンドというのはよく知られているが、というか今のは半分ちがうバンドの結成エピソードが混ざり込んでいるが、もはやROVOはあんまし宇宙っぽくない。以前『imago』や『PICO!』や『PYRAMID』のころがぽかったとすれば、『SAI』あたりから曲の質が変化し始め、『FLAGE』はそうでもなかったけれど、『MON』や今回の『CONDOR』に到る頃にはその変化はほとんど、目で見られる、手で触れられるくらいはっきりしたものになった。

その変貌した姿というのは、言葉で説明するなら、アーシーとか、エスニックとか、ダビーとか、そういったものである。代表曲「KNM!」や、一つの極めて簡単なフレーズを延々と繰り返す「LARVA」、ゴシック長編小説のようなプログレ「CISKO」などの初期の曲をおれは愛好しているが、これらは「幾何学的」「昆虫っぽい」「無臭」といったキーワードで表現することができると思う。ryuto taon君にはひとこと、「ミニマルが好きなのね」とごく単純に指摘されたが、まちがっていないけれどもっといろいろ言いたいことはある。

翻って、最近のROVOの楽曲には、ドラムの即興性が高い、ベースが大蛇がうねるようなダビーでゆったりしたベースラインを繰り返す、楽曲の基礎となるキャッチーなメロディを持たないといった共通点がある。それらを含めてアーシーとか、エスニックとおれは言っている。それこそ今度のアルバムタイトルは「コンドル」だけれど、宇宙レベルからスタートしたROVOの旅はぐるっと回って地球に戻ってきてしまったのだ(『MON』も、タイトルの一つの由来として「縄文」があったはずだ)。イメージされる図像も、昆虫のようなテクノっぽいものというよりは植物(今日のVJもまさにそれだったが)、また、宇宙のキラキラした感じも薄まって土や風といった地球ン中の自然を連想させる。ドイウロコさんが、KONONOナンバーワンとの対バンを見た際に感じた気持ちを以前ブログに書いていたが(http://uroco.exblog.jp/m2006-08-01/#4195724)、それはこれに近いのではないか。

今日はまず3楽章、1時間を超す壮大な構成を持った『CONDOR』→amazonから始まった(追記:なんかちがうなと思ったら1曲目は『CONDOR』のまえに、「REOM」だったみたい)。ライジングサンでも思ったが、ガーッと上がるタイプの曲ではなく落ち着いた、微細な音の変化を楽しむような曲だ。なのにガンガンに踊っている周りの連中におれは当惑した。1時間前後の『CONDOR』のつぎには「今回のツアーの中で生まれて、育てながらやっている(勝井さん。大意)」という生成中の新曲を。これもまた、最近の曲調。そしてアンコール(2度目だったか?)に「KNM!」が来た。

ここまで書いている感じでお判りの通り、ここまで、あんまりピンとくるライブではなかった。それまで感じていた自分とROVOが離れてきている感じがまざまざと露出してくるライブだったから。その欲求不満のところに「KNM!」が来て、久しぶりに「極星」が混じったような「KNM!」でなく、純度100%、しかも原曲にちかい、それこそ歌舞伎町のリキッドルームで見ていたころを思い出すようなシンプルで力強い「KNM!」だったから、一挙に肉体が爆発するように踊り出した。周りも一緒でここぞと爆発する客客客。みんなこれが欲しいんだろ?バンドサウンドや音楽性の成熟とかじゃないんだろ?少なくとも、残念なことに自分にとってはそうだ。これはもう、好みのコードというか、趣味判断に関する問題である。ROVOも、執拗なアンコールに会場の煮え切らなさを感じてこの曲をやったのだろうか?そもそも、大多数の客は欲求不満だったのか?

謎が謎を呼ぶまま、会場に後にし、た、かったのだが、ロッカーでびっくり。何と、ここのカギには番号が記載されていない。帰る際になって気づいた。でも細長いロッカーにいる人間のほとんどが同じ発見に呆然としているらしく、いたるところで飛び散る悲鳴と呪詛の声。カギをはめては開かず、はめては開かずを繰り返す亡者たちの群像。いまになって目に飛び込むのは、ロッカーに書かれた非情なるメッセージ。<ロッカー番号は必ず覚えてください>。横暴だぜ、そしてアナーキーすぎるアーキテクチャだぜスタジオコーストのロッカーよ。ブルブル震えながら駅前のヨシギュウで、ryuto taon君とKとKと豪華ディナーを食って帰る。おぼえておきな、今日がユニット結成の日だぜ、ryuto君。