まがじなりあ・あちらこちら10 きれぎれ文学考察3 覆面作家「芥川龍」を追いつめる1

今日は、皆さんにちょっと、殺し合いをしてもらいまーす。

高見広春バトル・ロワイアル』(太田出版幻冬舎文庫)より「坂持金発」の発言


新鮮なうちに書きたかったのだが連日忘年会だのイベントだの発熱だのでいっこうに取り組めなかった(なぜかいつも読んでいる読書系のブログではまったく話題になっていない。読書界からは黙殺されているのか、それともまったく知らぬ場でとっくの前に盛り上がりきってしまったのか)。

<それじゃルール>とその他もろもろ<を説明しまーす。>(前掲書)

週刊現代』12月22・29日号(12月8日売りだったか?)でスタートした連載小説「オンエア」をご覧になったか。作者の名前は「芥川龍」なんて不戯けた名前。雑誌の表紙には、上端の目立つところに<人気芥川作家が覆面で女子アナの生と性を描く新連載小説スタート!!>って文章。

週刊現代』といえば、ことし大リニューアルし、トバしなのかスクープなのか判断しかねる記事を連発しては読者に「大丈夫なのか?」と毎週心配させたかわいいキカン坊だ。初回は「お天気/キャスター望月結香(23歳)の場合」と題されているから、毎回ちがう女子アナの公私が描かれるのだろう。作者名の前にはわざわざ<覆面作家>の文字。挿絵は小野塚カホリ

リードには、<新連載小説 芥川賞作家が「女子アナ」の生(いのち)と性(セックス)
を描く衝撃作>だって。話題づくりを狙ったわりには<女子アナの生と性>なんて、通俗的なテーマ。あ、芥川賞作家=純文学の権化が通俗をやるから面白いのか?だとしたら芥川/直木のボーダーが溶解しているなか、いや、文学賞自体の権威溶解が叫ばれる中、おめでたいコンセプトだな。

しかし仕様もない企画と難じる前に、本読みを自認するのであれば、当てて見せなきゃ格好がつかねえ。

初回は全部で6ページ。挿絵が二点付いている。ざっと読むと、繰り返しになるが、仕様もないポルノ小説という印象しかない。
「ゆい」という女の子が彼氏とセックスしているシーンが大半だ。性交はゆいの視点で書かれる。携帯小説みたいに軽い文章。彼氏「タッくん」と自分の馴れ初めなどが、性交中の意識の流れのなかで、架空のインタビューみたいな体裁で入り込んでくる。

三点リーダーの多様、タッくんが携帯でセックスしているところを撮影する時の「タララララ〜ン」という気の抜ける音、ジュディ・アンド・マリーの歌詞の挿入。とりあえず、技法(?)で認められるのはそれくらいだ。最後のページに、<誌上懸賞クイズ>の説明がある。

 今号より始まった、女子アナをテーマにした新連載小説『オン エア』は、第3回(1月4日発売号)までは作家名を伏せ、「芥川龍」名で掲載いたします。この覆面作家の正体は誰でしょうか。正解された方から、抽選で20名の方に図書カード5000円分を、20名の方に著者のサイン本をプレゼントします。
ヒント 芥川賞受賞作家(性別は不明) 


当て推量じゃ面白くない。一人一人を精査検討した上に潰していって、確実に絞り込んでいく。清涼院流水の奇想天外な小説みたいな雰囲気でやりたいのである。言ってみれば百何人重要参考人がいるようなものだ。文学犯人を文学推理でもって突き止めていくのだ。だからみなさん、適宜阿呆だと笑ってください。

サブテキストは文春のオフィシャルサイト。 http://www.bunshun.co.jp/award/akutagawa/list1.htm
そしてwikipedia。 http://ja.wikipedia.org/wiki/芥川龍之介賞
まず最初の絞り込みを始めよう。芥川賞は1935年に始まった。一回目は石川達三が『ソウホウ』で取っている。戦前戦後のわずかな中断をはさみ2007年の「アサッテの人」諏訪哲史まで、全137回も行われている。このうち30回で受賞者ナシだった。だがダブル受賞というのも35回ある。だから過去すべての受賞者は142人もいることになる。142人の参考人!先は長いのだ。

(この項もここで一旦おわり。つづく)