分別ざかり、その出演者についてのメモワール、あるいはポルトレ、そしてタイムテーブル。


2006年の新木場、海風吹きすさび砂塵が巻き上がる湾岸の砂利が敷かれた空き地で何があったか。一般にはRAW LIFEというインディペンデントなロックフェスで、DE DE MOUSEという無名のエレクトロニカアーティストが、その場に居合わせた貪欲な音楽好きに、だれも発見したことのないような新しいアイデアの閃きでもって興奮を与えたということが、記憶されている。しかしそのレジェンドが創られるステージの真裏、会場のドンつきのステージで、おれは福岡からきた無名の3ピースバンドINN JAPANに度肝を抜かれていた。その場にいた人たちも一緒だった。巧緻とか卓越しているとか、そういうきれいな言葉とは真裏を行くパフォーマンス。RAW LIFEに出演するほかのアーティストのようなある種の不良っぽさ、ハードコアっぽさ、クラブっぽいにおいはない。その真逆だ。放課後、掃除の時間、全力で奏でるほうきのエアギター、みたいな、空転する熱気、みたいな。でもその日のどのバンドよりも、ZAZEN BOYSよりもエモーショナルだったし、ローライフっぽかったんだ、その日の三人の姿は。後方でおれはひとつも見逃すまいと目を見開く。最前列のほうでは、聴衆が砂塵を巻き上げる。スローモーションみたいだ。なぜだか円ひろしが鳴らされ、ボーカルはステージから飛び降り、胴上げされた。胴上げは竜巻のように位置をずらしながら、延々とつづいた。会場にはバンドの名前を連呼するコールが響いた。それがおれのローライフのいちばん濃くて、色褪せない記憶だ。

http://d.hatena.ne.jp/breaststroking/20080717


2000年、エックス・しゃんぺ〜(Gu/Vo)、ヒューマン・ケンタロウス(Ba/Vo)、ヤマノイズ(Dr/Vo) により福岡にて結成。濃厚かつキャッチーなロックンロールサウンド、純度の高いリリック、無軌道なパフォーマンス、荒唐無稽のエピソードなどが各方面で話題になり、「しょぼしょぼで無意味に熱い」「どうしても何かが欠けてしまう」「博多のベートーベン」「常に全力で空振りするスーパースタジアム級おっちょこちょいハードロックバンド」などと賞賛される。2010年5月、バンド初の全国流通アルバム「THA HAKATA ERA」をRAW LIFEのレーベル「BAD TRIP」よりリリース。
下記HMVサイトよりバンドの許可を得て転載。

去年の結成十周年アニバーサリーが楽しすぎたがゆえに、ことしも結成十周年アニバーサリーを、一年延長すると宣言した彼ら。まぶしすぎて直視できない。何を言ってるのか理解できない。フレネシさんの企画も面白かった。

http://www.hmv.co.jp/news/article/1101260067/

そんなインジャパンの別ユニット、電子音楽インジャパンを、「分別ざかりの無分別」にお迎えします。楽しみにしてください。 ※ドラムのヤマノイズさんは出演されません。

ムリンは1月のライブで対バンさせてもらった。ミッションズで呼んでいただく企画は、ぜんぶお店の企画だから、お店のセンスで組み合わせが考案される。面白いバンドもあるし、あまり聴かないようなタイプのバンドもある。そんなにたくさん、出ていないけど。ムリンは即興のキーボードと、おなじくそれにのらりくらり付いていくドラムスのかみ合わせが面白くて、グッとステージのそばまでにじり寄って見た。詞のテクスチャーの不条理感は戸川純とかを想起させる奇抜な感じなのに、クラムボン矢野顕子を思わせるような、グッとくるメロディを弾いたりする。そのアンバランスさが面白くて、笑って見た。その場で連絡先を交換した。何よりボーカルも即興(すべての曲ではないかもしれない)だというのが、暗闇の中で同志に遇会したみたいで、うれしかった。だからもっと見たいという気持ちで今回お声掛けした。


忘れらんねえよの柴田(しばやん)とはしょっちゅうは会わないが、振り返るとちょこちょこ会っている。さいしょに会ったのは朝方の歌舞伎町のお好み焼き屋か。ちがうかも。でもそのときはまだ親交があまりなかった。花見を新宿御苑でやって、何軒か飲んで歩いて、そのあと朝方のお好み焼き屋でしばやんとおれは遭遇した。周りにたくさん人がいたが、おれはそのころはまだ休刊の気配をみせていなかった『スタジオボイス』の話をしていた。そこにしばやんがやってきて、『スタジオボイス』を、というかイワユル『スタジオボイス』読者を批判し始めた。ここのあたりの正確なニュアンスは忘れました。いわゆる飲み屋の会話である。ただ、おれは『スタジオボイス』の悪口をいわれた気がして、ムッとした。『スタジオボイス』には、悪いところもある。でも、よいところもある。そんな気持ちで、今度はおれがしばやんを批判した。口論が始まって、やがて竜巻のようなケンカになり、しばやんは「これで足りるだろ!」というようなセリフを発すると、卓に一万円を叩きつけて、油くさい地下の店から出て行った。

のちのち聞いてみたところによると、しばやんの直後の生活は、困窮を極めたそうだ。だがそのやりとりがなんだか面白く、何かで聴いたしばやんの音源も面白く、どういう流れかは忘れてしまったけれど、一昨年、イベントに二回出てもらった。「ドストエフスキーを読んだと嘘をついた」、「Cから始まるABC」、「彼女のブログをのぞきこむ」など、曲名、ちょっとまちがってるかもしれないが、タイトルも内容も、一度聴いたら忘れない。しかもメロディがとてもキャッチ―で、口ずさみたくなるのだ。二回のイベントで、その場に事件のように彼らに出くわした人は、名状しがたいエモーションを感得したはずだ。それからバンドはより活動に真剣さを増して、精力的に動き始め、その活動はサイクロンみたいな巨大なうねりになって、今年はもう、週に1〜2本のペースでライブを行っている。その忘れらんねえよには、もちろんイの一番に、声をかけた。夜中、携帯の向こうで応答するしばやんは、たしか渋谷の飲み屋で行き場を失っていたはずだ。疲れて飲むしかないような夜のどん底で、やつは出演を快諾した。

柳下毅一郎さんに今回も出ていただけるのは嬉しい。おととしはバラードが亡くなって、まだそんなに時間が経っていなかったときで、追悼DJをやっていただいた。野田努は新著で、バラーディアンという言葉を使いながら、バラードが音楽家たちに与えた影響について説明しているが、このときのDJはJOY DIVISIONの「ATROCITY EXHIBITION」から始まるシビれるほど奇想に満ちた内容で、おれは勉強させてもらった。

ryuto taonやスーフリのDJは身内のようなものだから思い出話はよしておくが、珍しくDJでも出てくるryuto taonが、自分のあしたのプレイについて多弁をふるっていたので転載しよう。考えていることがまるでちがうから、いつもなんだかんだ言って、飽きないし、面白い男である。

じつはふつう、
クラブのDJでかかる曲はほとんど4拍子です。
日本のインド料理店は95%以上が“北インド料理”の店ですが、
日本のクラブDJの99%以上が4拍子のDJだと思います。

けれど、インド料理でいえば、
日本では5%未満しか店のない“南インド料理”には、
北インド料理”にない新鮮で豊かな魅力であふれているように、
3拍子の曲にはあきらかに、4拍子の曲にはない深みのある面白さに
あふれています。4拍子で踊るときにはけっして味わえない快感に
満ちているわけです。

また、ポリリズムの曲で踊る快感──
“同時に鳴っている異なるリズムのうち、どれを選んでノッてゆくか”
という面白さも、普通の4拍子の曲ではけっして味わえません。

こうした、ふつうのクラブ・DJでは滅多に味わうことのできない
3拍子やポリリズムの面白さ、そしてその独特のリズムに身をゆだねて
体を揺らす気持ちよさを、ぜひ明日のDJでは実際に体験していただければ…
と思っています。

それでは最後にタイムテーブルをご紹介。明日、高円寺でお目にかかりましょう!!

●タイムテーブル

2400-2435 とんびのからあげ
2435-2505 ムリン(Live)
2505-2540 柳下毅一郎
2540-2610 ryuto taonと抱擁家族(Live)
2610-2640 DJ MAGMA
2640-2710 電子音楽インジャパン(Live)
2710-2735 ryuto taon
2735-2750 沈まぬ太陽
2750-2820 忘れらんねえよ(アンプラグド)
2820-2850 かちゃくちゃ

おなじ目線で見ているのに、見えてるものがぜんぜんちがう。その面白さ、それと悲しさ。あるいは、誰も見つけたことのない、とっておきのアイデア


ryuto taon と抱擁家族企画『分別ざかりの無分別 VOL.2』


日程 2月18日(金)
時間 24時〜29時(all night long)
LIVE 電子音楽インジャパン(http://www.innjapan.info/)、忘れらんねえよ(アンプラグド)(http: //www.myspace.com/wasureranneyo)、ムリン(http://www.myspace.com/mmmurin)、 ryuto taonと抱擁家族http://www.myspace.com/hoyokazoku
DJ 柳下毅一郎特殊翻訳家)、とんびのからあげ(未来の文学)、DJ MAGMA(スーフリナイト)、沈まぬ太陽スーフリナイト)、ryuto taon、かちゃくちゃ(大衆決断)
会場 高円寺クラブミッションズ(http://www.live-missions.com/) Tel:03-5888-5605
料金 1500円+1ドリンク
INFO http://d.hatena.ne.jp/breaststroking/