2009年わたしの最良の書籍20+3冊



今年は、話題書や変化球を交互に行くような、派手な読書ではなかった。ただ、手が回っていなかったものを押さえる地固めのような読書は、通年でできた気がする。また、少し品がないけど、冊数でいうと、今年はこの5年間でいちばん読めた。以下の書名群は、例によって順番に意味はなく(まあ多少はあるけれど)、上半分はことし出た新刊書、下半分は旧刊書で、下のものにのみ、初版刊行年を記した。30分考えたけれど選びきらんくって、23冊になってしまいました。きちんと最後まで読んだものだけを対象にしています。


内田裕也内田裕也 俺は最低な奴さ』(白夜書房
都築響一『現代美術場外乱闘』(洋泉社
ECD『ホームシック生活(2〜3人分)(フィルムアート社)
高橋洋二『オールバックの放送作家』(国書刊行会
橋本治『巡礼』(新潮社)
橋本治内田樹橋本治内田樹』(筑摩書房
小谷野敦『『こころ』は本当に名作か』(新潮新書
坂本龍一『音楽は自由にする』(新潮社)
柳澤健『完本 1976年のアントニオ猪木』(文春文庫)
藤木TDC『アダルトビデオ革命史』(幻冬舎文庫
ジャック・ルーボー 高橋啓訳『麗しのオルタンス』(創元推理文庫
川上未映子『ヘヴン』(講談社


小林信彦『決壊』(講談社文芸文庫、2006年)
ヴァージニア・ウルフ 御輿哲也訳『灯台へ』(岩波文庫、2004年)
ジョージ・オーウェル 小野寺健訳『パリ・ロンドン放浪記』(岩波文庫、1989年)
ヴィトルド・ゴンブローヴィッチ 西成彦訳『トランス=アトランティック』(国書刊行会、2004年)
J.G.バラード 浅倉久志訳『ヴァーミリオン・サンズ』(早川書房、1980年)
ウラジーミル・ナボコフ 大橋吉之輔訳『プニン』(新潮社、1971年)
北山耕平『雲のごとくリアルに 長い距離を旅して遠くまで行ってきたある編集者のオデッセイ 青雲編』(ブルース・インターアクションズ、2008年)
見田宗介『まなざしの地獄』(河出書房新社、2008年)
大岡昇平『萌野』(講談社文庫、1978年)
大江健三郎『静かな生活』(講談社文芸文庫、1995年)
神林広恵『噂の女』(幻冬舎アウトロー文庫、2008年)

景気は悪いけれど、裕也、都築、ECD本みたいな不思議で傑作な本が出る時代にリアルタイムでぶつかることができた、この幸せをまずよろこびたい。『オールバック』は今年いちばん<中笑い>した本。構成作家にしか見えない風景、吸えない空気、そういうものを追体験させてもらった。『治と樹』は小説の書き方がある時本能的に判ってしまった橋本が、その境地を語っているくだりが抜群に良い。それを作品に反映した最良の成果が『巡礼』だ。小谷野本は今年、出るもの出るものかなり追ったが、本書が情報の濃縮度と表明された意見の新鮮さ(小説の良い悪いに絶対評価はムリ)で一番良かった。『自由にする』は聞き書きなのでカッコつけの龍一がカッコ良いことしか語ってないから、裕也本に出てくるみたいな格好悪い坂本もふくめ、通史が待たれる(教授の悪いところもちゃんと書いていた雑誌は、『噂の眞相』がなくなってから一つもなくなってしまって、今のなま暖かい教授翼賛体制は自分にはキモチ悪い)。『AV革命史』はid:erohenも書いているように、ただ浪花節的に作品評を連ねていくのでなく、機材技術進歩といった批評的視点からAVの通史を刻んでおりシビれた。去年のヒット・濱野智史アーキテクチャ』(NTT出版)に似た手ざわり。『オルタンス』は若島正さんのオビ文に惹かれて読んだ。仏の実験小説家グループ・ウリポにいた作家のミステリ小説だが、実験的な作風ながら、とにかく真剣に、濃厚にエロい。前衛なのにエロ、これはまるで塩キャラメルみたいなあたらしさ。トガった小説なのに、フランス人の生活ぶりや体臭をつよく感じられるのも面白い。ヘンな小説が好きだ! 

『決壊』はエバーグリーンな信彦風俗文学の精髄。神経がこまやかで、前を向いて歩けない人たちにとってのキャノン的な作品として永く読み継がれるだろう。『灯台へ』はナボコフに似た毛色の作家にやっと出会えたといううれしさ、そして作品の神々しさに目眩がした。オーウェル、ゴンブロは、ふざけているようで真面目、ポップなようで硬派、でもポップ、というのが似てる。今年はずっと両者の訳書をザクザク買い集めていた。『まなざし』は何を扱っても呪術的な見田ワールドになってしまう見田先生の過去のイイ仕事。『萌野』はニューヨーク〜ロンドン〜パリの旅路のなかで読めてスノッブなおれは気分が良かった。大江本は娘をモデルにした人物の一人称で、一見さわやかでヒューマンな連作に見せかけながら、身の回りの人間をつかってエグい話をズイズイ書いてしまう大江の気持ち悪さ、歪んだ業が噴出していて興味深かった。『噂の女』は『噂の眞相』の青春を振り返ることで、同誌がなくなってから自分らに出来したゴシップ誌スクープ誌大空位時代を嘆くことができた。ウワシン、最後に行くに連れ、輝きを増していったもんな。


内田裕也 俺は最低な奴さ
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現代美術場外乱闘
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都築 響一
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